※速水と安永



 持ち前のスピードを使えば、どうってことない。速水は目標を後ろから追い詰めていく。日向ぼっこをする黒白物体。
 そーっと、そーっと、そーっと。

「何やってるんですか、マッハ先輩」
「うわ、おま、バカ!」

 音を出したせいで、目標はすたこら走っていってしまった。速水は下ろしていた鞄を手に持ち、ぶんぶん振り回して、安永にヒットさせた。あいた、と彼は呻いて、腹を押さえる。

「ばかやろー! 二時間十七分かけてチビちゃん見つけたのに! 逃げちゃったじゃないか!」
「知りませんよ! 不審な行動している人と思ったら、先輩なんですもん!」
「猫探しだよ!」

 速水は安永の手を引っ張って、黒白猫のチビちゃんが走り去った方向へ、足を踏み出した。

「チビちゃんを逃がした罰だ! お前にも手伝ってもらうからな!」
「ええ! 俺これから買い物あんのに!」
「知らない! 俺はチビちゃん探しに成功したら、二千円収入が入ってくるんだよ!」
「そんなの知りませんよ!」

 チビちゃんはうまく人混みをすり抜けて、先へ先へと進む。速水たちもステップをうまく踏みながら人を避けて、チビちゃんを追いかけた。後ろで、安永の息切れの音を聞く。速水は振り向かないまま、彼に叫んだ。

「丁度良い特訓になるだろ! こうするとスタミナもスピードもつくぜ! これからお前、俺の特訓に付き合えよ!」
「えーなんでですかあ」
「ベンチに座ってるだけじゃ、つまんないって事! 頑張って一緒にレギュラーになろうぜ!」

 安永は息を呑んで、黙って速水の後を追い続けた。
 チビちゃんとの距離が縮まる。そして――







つ:追跡調査が好きな君




2010.04.24









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