※俺×ヒロト
しの続き


 テラスで待っていたヒロトに上着とコーヒーを渡した。ありがとうと低い声が返ってくる。星座盤だけを持って、彼の視線はすぐ空に戻った。街頭の明かりと空に泳ぐ電線。がちゃがちゃして賑やかすぎる東京の街。未だに眠らぬ都市もぎんぎらと輝いて騒がしいだろう。東京の奴らは富士の美しい夜空を見る事は叶わないのだ。今は無き研究所を思い浮かべる。最初は不便だったけど、住めば都だ。空気もうまかったし。ふ、と煙草の煙を吐き出す。ヒロトはそれを払う。

「ちょっと」
「悪いな。今日は何をお探しで」
「言わない」

 可愛げがなくなっちゃってもう。俺は星座盤を覗き見た。一瞬見えたのは乙女座の照準。

「スピカか」
「何で分かったの」
「勉強したからな」

 煙を吐き出す。ヒロトがくしゃみをして、鼻を覆った。

「よく見えないな」
「東京だしね」
「ヒロト、知ってるか」
「スーパーノヴァは」
「星が瞬くのは大気があるからだ」
「うん、そうだね」
「なら、東京ってのは大気が薄いのかな。ちっとも見えない」

 そう言うと彼は大声で笑った。勿論今のは冗談で言ったんだ。本当の理由はちゃんと知っている。

「ヒロト、あれだ」

 一点目立った星を指差す。えー、とヒロトは星を見た。

「本当?」
「ああ、今度はな。勉強したんだぞ」

 そう?
 そうしてヒロトは星座盤とその星を照らし合わせた。







す:スピカが好きな君




2010.03.31









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