守るべきもの(定沖)/真宮寺実琴(1)

マモリタイモノがある

それは友人?恋人?家族?

マモリタイモノがある

それは それは それは



守るべきもの



その日、曇り続きだった天候は珍しく晴天で。空の下の方へ目を向ければ綿雲の一つや二つ、浮かんでいないこともないのだがそんなこと気にしていられない程の陽気である。

夏も過ぎて秋の初め。沖田は視察を名目に江戸の町を練り歩いていた。かの中毒的なマヨネーズ愛好者も某万屋と勝負だとかで結局は同じサボリになるのだろうから、端から遠慮はない。


「あちぃ・・・」


文句をたれつつも歩いていく。途中何軒か魅力的な茶屋がなくもなかったのだが、今はそれほど咽が渇きを訴えているわけでもなければ腹も空いていない。

ヒマをもてあまし(これを言えば上司達から仕事しろ!と叱責を受けるだろうが)人混みを離れて土手沿いを歩く。人もまばらになってきた頃には土手脇の道も、舗装されたコンクリートでもなくありのままの砂利地になった。

昼過ぎで八つ時も過ぎた何とも言えない中途半端な時間。本来なら今は勤務時間だし、犬の散歩にも中途半端だ。だから、最初っから期待なんてしていなかったのだが。


「よぉ、まさか会えるとは思わなかったぞ。」

「・・・チャイナの犬じゃねぃか。」


土手の草むらに見たことのある銀髪を見かけ、足を止めるとにっこりと満面の笑みが向けられた。ふわふわの銀髪はかの万屋に似ていないこともないが、身に纏う空気がまず違う。

立ち上がった銀髪は、沖田の小柄な背丈などゆうに越え、自分達が守る局長(でも最近はストーカーだ)より少し上背くらいはあるだろう。


「犬じゃねーぞ、定春だ。」

「あーそうだったな。」

「カミサマだからな、何でもありだ。」

「何でもありすぎだぜぃ。」


定春、と名乗った青年は、水色のの着流しの裾に手をつっこみくっくと笑う。大きな目は、やはり沖田の最高のライバルチャイナ娘の愛犬のそれだった。

事情を心得ている沖田は、丁度退屈していた所だったと一緒にいるであろうチャイナ娘を捜す。キョロキョロと辺りを見回しだした沖田を不可解に思ったのだろう。定春も同じく辺りを見回し沖田の笑いを買った。


「なんでぃ、脱走か?」

「・・・神楽を探してたのかよ・・・今は俺一人だ。」

「一匹の間違いだろ。」

「うるせー。」


機嫌を損ねたらしい、定春は子供のようにすねて再度草むらへと仰向けに寝転がってしまった。

沖田はわりぃわりぃと誤りながら、自然と許された隣に同じく寝転がる。

空は快晴。真っ青な空は遠く澄んで、吸い込まれそうである。


「・・・なぁ、沖田ぁ。」

「なんでぃ。」


ずっと静かな沈黙が流れていたのだが、ある潮の満ちた時にふっと定春は口を開く。いつもなら、犬の言葉で訳が分からないけれど、今だけは同じ言葉にいつもの思いを込めて。


「俺もお前も、守るべきものがあんだろ?」

「あぁ。」


定春は主人を。沖田は上司を。大きくまとめれば大切な人を。

つまりは、お互いではないということ。

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