揺れる心(土沖←銀)/咲阪優季(2)

いや…本当は最初から好きなんて、曖昧でわかってなかったのかも。

でも、なら、アイツは何?
言い寄ってきたから、好きになった?

だから、今回も旦那に堕ちそうになった?

もしそうなら何て曖昧で失礼な感情しか持ち合わせていないんだ俺ァ…。

思いながらちらりと視線を上げると塀の上に三匹の猫。

猫が何匹も集まってるのなんて俺はあんまり見ないから、珍しいなとじっと見ていた。

二匹の猫が仲良さげにすりよってただじっと見つめる一匹の猫。
にゃあん、と悲しげに鳴いてそいつは居なくなった。

かと思うとつるんでいた二匹のうちの一匹が俺の方に寄って来て、手を伸ばしても逃げないからその猫を引き寄せて抱きしめた。

にゃぁ…、と鳴くから
嫌がっているのかと思い、手を離すとこちらきすりよってきた。

あぁ、猫にまで慰められるなんてねィ。

心配な瞳で見つめてくる猫。
その猫の毛の色は俺の髪の色と似ていて、それだけで俺に似ているとか思った。

こいつとつるんでいた猫は他のよりちょっとだけ目付きの悪い猫。

そっちはなんだかアイツに見えてきて。

「俺…何か今日は創造力豊かでさァ」

はは、っと笑って、猫を抱いたまま疲れていたので眠りについた。

旦那には悪いけど、起きたら俺は川原にいて、
旦那と会ったのも
旦那が俺を想っていた、ってのも夢だったら、って思った。


そうすれば、こんなに胸の中がぐちゃぐちゃにならずにすんだから。

何て自分勝手な考えだろう。
自身の考えを自嘲する。

そして、猫がにゃあんと慰める様に鳴く声が聞こえたのを最後に、俺は深い深い眠りについた。


見慣れない町並みの人気のない空き地。

木の影に見える見慣れた髪の色。

「…ったく、コイツこんなとこにいやがったのか」

ぐー、という寝息をたてて、少年は木にもたれかかって眠っていた。

約三時間前。
まだ真っ昼間。太陽が元気に活動している時間にこいつはいつものごとく逃亡した。

今はもう太陽が傾いてきている。

いつもいつもサボりやがって…仕方のねえやつ。

思いながら隣に座りこんで顔を覗きこむ、といつも邪魔なアイマスクがなく寝顔がはっきり見えた。

眠っているので、害の全くない穏やかな顔をしている。

「…コイツ、寝てたら可愛いんだけどな」

いつもは毒舌な上、俺にするのは憎たらしい顔ばかり。

俺が好きだと言った時でさえ、憎たらしい顔で
「へえ…?そういう趣味だったんですかィ、どんびきでさァ」
何て言ってきた。

こいつは、少しでも可愛くできねえのか、何て思ってたら「まあ、俺はそういう趣味じゃありやせんけど、アンタの事は好きですぜィ」
とか言ってきて、ますます憎たらしいなとか思って、でも好かれてた事が嬉しくて抱きしめたくなって手を伸ばせば「苛める対象としてですがねィ」とかつけ足されて、ぶちギレたのを覚えている。

あぁ…憎らしい。
でも何故か愛しい。

そんなことをぼーっと思い出しながらじっと顔を見ていた。
ぴくりとも反応しないので、おそらく相当深い眠りについてるのだろう。

幸せそうな顔で眠っている。

だが、今は一応仕事中だ。
さぼりを認めるわけにはいかないので沖田の身体をゆすって起こしにかかる。

「オィ、総悟起きろ。仕事しろ」

何となく起こすのが可哀想で起こし方がひかえめになる。

アイマスクをつけていたら表情がわからないから怒鳴り散らして起こすこともできるのだが
こんな穏やかな笑顔で幸せそうに眠られたら、何となくこっちが悪い気がしてならない。

「総悟ー、オィ」
何度声をかけたかわからない。やっと、反応があったかと思うと少し身じろぎしただけ。

「おーい」
段々、起こすのが面倒になってきた。

つか、コイツ嫌な笑み浮かべ始めたんですけど。
絶対起きてるって。

遊んでやがる、コイツ。

「オィ…いい加減にしろ、起きてんだろ」
語調を強めて言うと、うーん、と唸って薄く目を開けた。

「あれ、土方さん、どうしたんですかィ?え、ってかよくここがわかりましたねィ」

「お前の行くとこぐらい予想できるっての」
まぁ、ほんとは色んな人にお前を見てないか聞いてやっと見つけたんだけどな。
「つか…どうしたんですかィ、じゃねえ。仕事サボって何やってたんだ、こんなとこで」

「猫と戯れてやした」

「猫居ねえじゃねえか、明らかな嘘ついてんじゃねえ」

そう、いつの間にかあの猫はいなくなっていた。

「嘘じゃありやせんよ。おかしいなー、本当にいたんでさァ。俺にそっくりな猫が」

「はぁ…、わかったわかった。で、結局はサボってたんだな?」

「そうでさ。あ、そうだ。土方さんも一緒にサボりやせん?」

「何でそうなる、仕事なめてんのか、あ゛ぁ!!?」

「俺がなめてんのは土方さんだけでさ」

「ムカつく野郎だな」

「なめる、っていってもこっちの舐めるですぜ?」

言いながら土方に股がり、顔の横に両手を置く。

首筋に舌を這わせた後、沖田は土方を見て笑う。

「何固まってんです?面白い人でさァ」

くすりと笑って沖田が言う。

いつもの様におちょくられているだけ。
なのに、何だかいつもと少し様子が違う気がした。

そうだ、コイツは、普段なら自分からこういうことをあまりしない。
特に外では。

こういうことというのは、俺に触れてくること。

こういうことをするのは、コイツが俺に甘えたい時。
もしくは、何かを隠している時。

「土方さん…?おーい、固まらないで下せェよー」

反応がないから面白くないのか俺の顔の前で手をちらつかせる。

「ひーじーかーたーコノヤロー、何か反応しろィ」

俺はその腕をつかんで引き寄せた。

「…何でィ」
「お前が反応しろ、っつったんだろが。てか、何か今日…いや、姿を消した後から総悟、お前変だぞ」

さっきは自分から触れてきたくせに俺が腕をつかんで引き寄せたらコイツはもがきはじめた。

「何かあったろ、姿消したあと」

ぴたりと動きが止まって、見ると沖田が珍しく震えていた。

きゅ、と俺の服をつかんだまま俯いて黙り込んだ。

「何かあったみたいだな、何だ?話してみろよ」

「…怒りやせん?」

「怒られるようなことしたのか、てめーは。何だ?民家ぶっこわしたとか、店壊したとかだったら怒るぞ?」

「俺はどこの破壊神ですか、そんなこたァしやせんよ」

「普段してるけどな」

「…もっとまじめな話でさァ」
珍しく真面目な顔をした沖田の様子でそれが真実だとわかる。

「…何があったんだ」

「旦那に…」

「万事屋の野郎に何かされたのか?よし、アイツ今すぐ殺ってくる」

「いや…じゃなくて、旦那に告られやした」

やっぱり、アイツの総悟を見る目はそうだと思ってた。

「そんで、今アンタがやってるみたいに、抱きしめられやした」
淡々と沖田は話す。

「…土方さん、俺の事、好きですかィ?」

「はあ…?決まってんだろが、わざわざ言わせんな」
「ぶっちゃけもう俺のこと嫌いなんじゃねぇんですかィ?」

「…、何でそうなるんだよ?」
語尾が怒ったように上がる。

悔しいから、本当は言いたくないけど
「不安なんでさ。俺のアンタへの気持ちもふわふわしてて、不安定で。アンタからは好きなんて言葉一回しかもらったことないし。俺達は何なんだろう、って」
言ってしまった。

どうしよう、もし本当に嫌われていたら。

俺達はただ偶然好き合ってただけ。

それがずっと続くとは思ってなかった、最初から。

でも意識しないようにしてた。

なのに、旦那に言われたせいで…
いや、言われたから…

不安が大きくなった。

情けねェ…。

「総悟」
土方は沖田の背中に逞しい腕を回してぎゅっと抱きしめた。

好きだとは言わないのが、逆に愛してくれてる証拠なのかな、なんて思った自分が可笑しかった。

「勝手に想像して不安になってんじゃねえよ」

「…っ」
不覚。

アンタにときめいた。

俺は乙女か、ってねィ。
あー、もう、やっぱ俺今日おかしいかも。

「土方さん」
もたれかかって、胸に顔を埋めて、アンタの腰に腕を回して、届かないぐらい小さな一言。

「…安心できやした、アンタの言葉で」

柄にもない。あー、俺らしくねェ。

「何か言ったか?」

「何にも?ついに耳までおかしくなりやしたか?」

「耳まで、って何だ!!」

「頭もおかしいじゃねえですか」

「誰が頭おかしいだと!!もう二度と優しくしてやらねえからな!!調子のりやがってこのガキァ!!」

「そのガキを進行形で抱きしめて、調子のらせてんのはどこの誰ですかィ?」

ぱっと、腕を離し、離れようとするから引き寄せてやった。

やっぱり、俺が本当に好きなのはアンタでさ。

だってアンタが一番ほっとする。
アンタの行動全てにほっとする。


俺はアンタをぎゅっと抱きしめた。
そりゃもう、骨が悲鳴をあげるぐらい思いっきり。
「うりゃー」

「てめ…っ」

俺が絞めてるぐらい、本当は簡単に逃れられるくせに、そうしないアンタが好き。
「死ねよ、土方」
暴言は、愛をつむがない正直じゃない俺の精一杯の愛情表現。

「んな簡単に死ねるか」

「いつか殺してやりまさァ」
俺以外の誰かがアンタを殺すなんて許せねえし。

「寿命全うさせろや」

「じゃあ出血大サービスで、バズーカでぶっ飛ばすんじゃなくて刀で死なない程度に出血させて苦しめてから殺してやりまさァ」

「普通にバズーカで瞬殺された方がマシだ!!」

冗談言って、馬鹿やって、こんなんが一番俺達らしいかもしれやせんね。


旦那には悪いけどやっぱり、俺は土方さんが好きでさァ。


「土方さん」

「何だ?今すぐ殺すとか言うなよ」

「これからも馬鹿で間抜けでヘタレでいてくだせェ」
「何、お前、馬鹿にしてんのか?喧嘩なら買ってやるぞ」

「今は遠慮しときまさァ」

これからも、ずっと。


こんな日々を…

アンタと共に。

なーんてね。


土方さん

死ね死ね、っていつも言ってるけど
本当は大好きでさァ 。

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