俺と俺の秘密基地(定沖)/咲阪優季

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「…わんっ!」

犬の鳴き声が聞こえる。

こんな場所で、聞こえる筈のない鳴き声。

だって、ここは町外れにある俺だけの秘密基地。

「…どこのくそ犬でィ」

犬は嫌いじゃない、けど秘密基地に勝手に入られたのに腹をたてて、苛立ち気味に俺は閉じていた瞳をゆっくりとあける。

目の前に広がる白。

否、ただの白ではなく白い毛。

そこに居たのは、万事屋の所の馬鹿でかい犬。

「……」

何でここにいるのか、とかこんな馬鹿でかい犬がこんな細い木に乗って何で折れないのか、とか突っ込みたいことは山ほどあったけど、とりあえずこの犬の主人はどこだ、と辺りを探してみる。

しかし、居るのはこの犬だけ。

「迷子、かィ?」

「わん!」

さて、困った。
犬には人語が通じない。

いや、犬には人語がわかるかもしれないけど
こっちは犬の言葉がわからない。

迷子なのか何なのかわからないが、とりあえず木が折れてしまう前に下に降りることにした。

俺がひょい、と飛んで降りると犬も真似して降りてきた。

俺の上に。


多分じゃれているつもりなのだろうが、この図体でじゃれられると正直つらい。
「…!何で俺の上に降りて来るんでィ!!退け!!」

言っても無駄だとわかりつつ、とりあえず叱ってみた。

すると、案外簡単に言うことを聞いて、わん、と弱々しく鳴くと俺の横に座って申し訳なさそうな顔をする。

何だか、仕草が人間みたいだ。

はぁ、とため息を一つついて、俺は犬を撫でてやると言った。

嬉しそうに定春は尻尾をふっている。

「こっから一人で帰れるかィ?俺はもう一眠りするから、さっさと帰りなせェ。あ、あとここのことは秘密な。俺だけの秘密基地なんで」

「わん!」

それは肯定なのか、否定なのか。

「いや、犬語で言われてもわかんねェから」

人語を話すはずがない事をわかりながら冗談でそんなことを言って、俺は犬を放ってまた木の上に上り眠りについた。


何時間か経ったのか。

空気がひんやりとしてきた。
太陽が翳ってきたからだ。

俺はぼうっとした頭で薄く目をあけた。

白の様な、銀の様な頭の男が目の前にいた。

顔は逆行でよく見えない。

「万事屋ん所の…」

旦那だと思った。

「うん、定春」

「へ?」

「だから、定春」

はぁ!!?と柄にもなく叫んで飛び起きる。
目の前にいるのはどこからどう見ても犬ではなく人。

「定春は犬でィ、警官を騙そうなんてどこの誰だ、アンタ」

「だから…定春だってば」
「んなわけ…」

「秘密基地」

「…何で知って、あ、あの犬喋りやがったな!」

「喋ってないよ。だって俺がその犬だし。ずっと此処にいたのに誰に喋るのさ」

にっこり笑ってそう言う男をもう一度改めて見てみるが、やはりどこからどう見ても人である。

「犬が人になるなんて聞いた事ねェや」

俺がそういうと

「ただの犬じゃないから」
とあっさり返される。

「俺はねー、狗神だよ?」

「だから、人になれるとでも言いたいのかィ?」

「うん」
嬉しそうに定春、と名乗る男は笑った。

「俺と遊んでよ」

定春は木から軽く飛び降りると手招きをする。

初めてはっきり相手の姿を確認できて、同時にコイツの言ったことを信じることになった。

だって、もしそいつが人になった定春じゃないなら
その男の特徴的な眉。
頭に生えた耳。
首にある首輪。
腰のあたりから伸びる尻尾の説明がつかないから。

いや、天人ならありえなくはないけど。

「遊ぶ、って何して?」

木から降りて定春の横に座る。
「かくれんぼ、とか?」

「何でこの年になってそんなことしなきゃなんねえんでィ」

冷たく沖田が言い放つと定春はしょぼんと耳を垂らして唇を尖らせる。

「沖田君の意地悪ー」

「キモいから沖田君とか言わねえでくだせェ」

「何で?」

「だから…キモいから、って」

「沖田君は俺の事嫌いだからそんなこと言うの?」

特徴的な眉を下げて悲しそうな顔で定春は言う。

「いや、別に嫌いじゃ…」
「俺は沖田君大好きだよ」
にっこり笑って定春は言う。
コイツの笑顔は調子が狂う。

「だからさ、これからは此処を、俺と沖田君の秘密基地にしてほしいな」

はにゃんと、人なつこい笑みを浮かべてじゃれながら言う。

飼い主にすりよる犬みたいだから、ああ、人化しても本質は犬なんだ、とかぼーっと思った。

あれ、てか今、勝手に二人の秘密基地に、とか言わなかったか?

「何、言って…」

「それでさ、毎日遊びに来ていい?」

沖田のペースを完全に崩してマイペースに話し続ける定春。

「沖田君といっぱい遊びたいんだ」

最後に、真面目な顔で定春がそう言ったかと思うと顔が近くなって、そのあと、唇に何かのあたる感触。

ぼけっとして動けない俺に「またね」と手を振って定春は帰っていった。

「おぃ…っ!」
追いかけて、定春の言った方を見ると遥か遠くに、かけていく白くて大きな犬。
夢…?

そう思ったけど、次の日そこで寝ていると木の下から少し間延びした声がかかった。

「沖田君、あーそぼ」
と…。



▲あとがき▲
もう何かこれ、定沖じゃねえし。
ってか、何、ちゅーって君達…。

いや、させたのは私だけども←

定春は甘えたさんだと可愛い←

で、甘えられたりしない沖田君がどうしたらいいかわからない内に定春のペースに巻き込まれてたり…。

話に収集ついてなくてすみません!!

閲覧お疲れさまでした!笑
制作
2008.03.30日
咲阪優季


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