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冬。とある小路。


パリは雪に覆われていた。



「雪ね…。」



これで何度思いだすのだろうか。今考えてみれば、この行為は彼女がいなくなった15世紀からである。毎年毎年、この住み慣れた街パリにソワソワと冷たい白い華が降ってくる。もう何年生きただろう。忘れさせてしまう程に。


彼女は国民のすべての希望を背負っていた。神のお告げを受けた田舎娘を。彼女はほんの一握りの希望を、この国の光に変えた。そう、眩しくて何も見えない程に。




「ラ・ピュセル」




たったひとりの少女。女中。この国のために、この人間のために、すべてを背負った清い少女。救世主?魔女?そんなんじゃない。ただの少女。



彼女は、同じ人によって殺された。彼女は同じ国民に捕らえられ、金で敵国に売られ、監禁された。異端な魔女だと言われた彼女は、女の格好をしたが、その時にはもう遅かった。彼女はもう治せないような傷を、この国に、人に負わされていた。約束を決意によって破った彼女は、ルーアンにある広場で火炙りになり、性器までの裸体をさらされ、見せ物にされて死んでいった。そう、この国で。同じ人によって。彼女が救いたかった、人によって。



雪はいつまでも降り続けるという錯覚をみせる。俺が溺れてしまう程に。雪に溺れる。とんだ笑い物だ。
雪は空、天から降り、人々の目に入り、地に吸い込まれていく。そして消えてしまう。地に、人に、体温に。
自分の目に見えたのが、希望を背負ったメシア、雪ならば、地は人で、彼女を降らせた天は神であろう。




「いや、もしかしたら空に雪を降らせたのは、それを望んだ人かもしれない。」




そして雪は、儚く消えていく。俺達が歩くために、踏まれて、泥で汚れながら。雪も地も、汚れてしまう。







「嗚呼、それでも」







彼女はこれを望んだのだ。雪のような人生を。若さ故に、この幸せが永遠に循環するようにと。誰にでもある、良心と希望と勇気と忠誠を持って。










―――そう、あの子はラ・ピュセル










人として生まれ、田舎娘に育ち、救世主になり、異端とされ、魔女になり、罪人になり、聖女になった。




人のすべて。永遠の少女。



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