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フランスとイギリスが恋人でなくなってから二年がたった。フランスはやはりイギリスのことが好きだったし、イギリスもフランスを自分の中で一番好きだった。だが、それは恋人のソレではないらしかった。そして、親友のソレでもない、何かだ。
「なぁイギリス」
「なんだ?」
以前別れた時の情景と、そっくりそのままの状態であった。使い古された色の濃い木製の洒落たチェアそして刺繍が施された白い布をひいた年代物のテーブル、硝子の角砂糖入れ、白と薔薇と金が施されたティーセット、イギリスが入れた紅茶、イギリスの糞不味い炭菓子、そしてフランスとイギリス。春の訪れを感じる季節。
「俺達さ、やり直さない?お互い、色々わかってなかったと、思うんだ」
外はまた、雨だった。いや、あの日からずっと、ロンドンは雨が多かった。
「…ごめん」
イギリスは、恋人に戻れないという。一度切れた糸は、元通りには戻らない。恋人という糸は、切れてしまったのだ。だからといっても、友達や親友などという関係になったということでもなかった。何か、物足りないのだ。
「ねぇイギリス。お兄さんに何を求めてたの?」
長い沈黙。そこには二人の心臓の音が聞こえるほど、静かだ。
「…何にも、求めてないよ」
イギリスは、角砂糖が3つ入ったとても甘い紅茶を一啜りした。いつからかイギリスは、甘い紅茶を好むようになっていた。
「ということは、俺は必要ないってことかな?…イギリス、俺に好きって言いたい?俺にふれてみたい?」
それがフランスにもうつったのか、気付かぬ間に五つもの角砂糖が紅茶に入っていた。口付けると、このまま倒れてしまうのではないかというくらい、甘い。
「したいけど、しちゃだめだ」
曖昧な甘さのイギリスの紅茶は、吐き気がするほどであった。
世界に二人しかいないのかと思えるほど、静かだ。一言一言が部屋中に響いて、三半規管を揺らす。とても音が重かった。
「そっか…。あのさ、今思ったんだけど。新しく作らない?」
何を?…俺達の関係を。
切れてしまった糸を結んだら、より絡み合うが、決して繋がることはない。ならばどんなことをしたって、切れないような強い糸を、また俺達に繋いでしまえばどうだろう。
恋人でも親友でもなくて、もっと違う深い関係。それはその深さ故に、言葉を持ってはいない。その、何かに。
「新しく、始めようよ。イギリス。」
心の矛盾は、とっても辛いこと。俺達、そうやってここまでになってしまったのだから。何も恋人とか親友という言葉に恐れない仲を、作ってしまえばどうだろう。ね?いい案でしょ?
「…いいな、それ」
雨は、やっと止んだらしい。ポタリと木々から雫が垂れている。
「アーサー?好きだよ」
「うん、俺も、好き」
「ずっと、そうでいようね」
「ああ、ずっとな」
イギリスは、甘い紅茶を一気に飲むと、紅茶のニ杯目を自分のカップに入れた。
だがイギリスはその紅茶に角砂糖を入れようとはしなかった。
「あれ?坊ちゃん、砂糖入れないの?」
「ん〜…」
濃い紅茶に口をつけ、皿に置き、一息ついてこう言った。
「もう俺には必要ないからな」
今までに見たことのない輝きが、大人びて見えるイギリスの目には、宿っていた。
「…そうだね」
二人は笑った。
ロンドンの空は青色になり、地は先程降った雨で光り輝いていた。鳥はハタと己の翼ををふるわすと、青空に飛び立った。人々の楽しそうな声と生き物の歌声や植物の囁きが聞こえる。
やっと、世界に春がやってきた。
「これからも…どうか…よろしくな」
「よろしく、アーサー」
イギリスの頬は、赤かった。
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