06

 私と円は制服で集合していたから、バッグを開けて着替えを取り出す。
 半袖のTシャツに下は学校指定のジャージ。ハーフパンツが見付からなかったから冬用を持ってきたけれど、さすがに今日は暑すぎる。裾はロールアップした。
 髪の毛はどうしようかと考えていると、控えめなノックの音と私を呼ぶ声がした。ドアを開けると、一足先に着替え終わった円がひょこりと顔を覗かせた。
「名前、髪の毛結んでほしいんだけど、いい?」
「うん、いーよ。何にする?」
「ポニーテール!」
 円をドレッサーの前に座らせて、指通りのいい髪を後頭部の高い位置で一つに結ぶ。少し癖のある毛先がちょこんと外側にはねているけれど、それもご愛嬌だ。
「はい、出来た。ついでに編み込みもしといたから」
「やった、ありがと名前! あ、名前も結ぼっか?」
「いいの? じゃ、お願い」
 人の髪を結ぶのは得意だけれど、自分の髪はなかなか上手く結べないから円の言葉は有難い。私の髪の長さじゃ首の後ろがくすぐったいから、私はポニーテールじゃなくてお団子にしてもらった。
「わ、どうしよ、あと五分しかない!」
 部屋の時計を指差して言った円の言葉に、二人慌てて部屋を出た。
 たぶんこっちな気がする、とあらぬ方向に走り出そうとする円の手を握って、近くにいたメイドさんに道を聞く。休まず走って、なんとか一分前にはテニスコートに到着した。
 息を整えながら、仕事の内容を思い出す。ドリンク作りに、洗濯、けがの手当て。スコアの記録に、細かい雑用もあったかな。
 ドリンクの作り方とスコアの取り方は事前に円から教えてもらっているし、洗濯は練習の終わりにまとめてするから練習中は洗濯ものを集めるだけでいい。けがの手当ては消毒と絆創膏を貼るぐらいしかできないけれど、医務室があるから最悪そこに連れていけばいい。雑用もなんとかなるだろう。
「じゃあ、名前。今日は氷帝と青学のコートをお願いしていい?」
「おっけー」
 円と別れて、まずは部長に挨拶するべきかと青学のコートに向かう。知らない人ばかりで気が重い青学のほうを先に終わらせてしまおう。面倒なことは先に終わらせる主義だ。
「あー、手塚君」
 君なんて敬称をつけるのは私の柄じゃないなと思いながら、青学の眼鏡の部長を呼んだ。
「氷帝の名字です。今日はよろしく」
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
 短い挨拶を交わして、彼らがストレッチをしている間にボール出しをする。ネットはすでに張られていた。
 なれない仕事で不安はあるけれど、円のためになるなら、私は頑張れる。よし、と心の中で気合いをいれた。

top