02

 頬杖を付きながら次のライブのセットリストを考えていると、四限の終わりを告げるチャイムが鳴った。
 チャイムが鳴る五分前には机の左上に片付けられていた教科書と筆箱を机にしまって、財布を持って立ち上がる。
「円、私ジュース買いに行くけど、ついでに何かいる?」
 目いっぱい背伸びをして黒板を消している円に声を掛けた。動かせるタイプなんだから黒板下げればいいのに。
「うーん、……ファンタ!」
 黒板消し片手にしばらく考えて、結局はいつものに落ち着いたことに口元を緩めた。
「オレンジね。おっけ」
 返事をしながら黒板を下げてあげると、円が目を丸くして、たった今気付いたという顔をするから今度は小さく声を上げて笑ってしまった。
 上の方に書かれた白い数式が難なく消されていくのを尻目に、教室を出た。食堂前の自販機は混雑するから、二棟の一階にある自販機に向かう。
 ペットボトルを抱えて教室に戻ると、円は机に置いたお弁当を開かずに何やらプリントを読んでいた。先に食べずに待っていてくれたらしい。
 自分の机からランチバッグを取って円の席に行くと、円はプリントを読んでいた顔を上げた。
「あ、名前おかえり」
「ただいま。はい、ファンタ」
 腕に抱えていたファンタを円に渡して、近くにあった椅子を引き寄せる。円の机を挟んで向かい合わせに座った。
「それ何のプリント?」
 ランチバッグからお弁当を取り出しながら、二つ折りにして机の端に置かれたプリントを視線で指した。
「明後日から三連休でしょ? それでテニス部の合同合宿があるんだけど、それの連絡」
「へー、合同合宿。気合い入ってんね」
 見せてくれたプリントによると、三日間まるっと合宿だ。せっかくの三連休なのに大変だ。
 卵焼きを口に運びながらプリントを眺めていると、ひとつ気になることを見つけた。
「ちょっとこれ、円だけって無理あるでしょ」
 四校合同での合宿なのに、他の学校にはいないからマネージャーは円だけらしい。
 参加するのはレギュラーだけで部員全員ではないにしても、さすがに一人でマネージャー業をこなすのは無理だろう。もし円が倒れるなんてことがあったらどうするのか。
「うん、それでね、お願いがあるんだけど」
 円が妙に真面目な顔をするから、鳥のからあげに伸ばした箸を止めた。
「なに?」
「名前に手伝ってほしいんだけど、だめかな」
 こてん、と可愛らしく首を傾げて頼まれて、断れる奴がいるだろうか。いたらちょっと表出ろ。
「分かった、いーよ。円の頼みなら断れないじゃん」
 それに少しでも円の負担が減るなら、むしろ喜んでいいくらいだ。私じゃあんまり役に立たないかもしれないけれど、一人よりはきっといいだろう。
「やった、ありがと名前!」
 嬉しそうに顔を綻ばせる円を見て、表情が緩くなっている自覚があった。

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