07

 黙々とボール拾いをしていたら集合がかかった。時計を見ると、気付けばもう部活の終了時間だった。
 我ながらよく働いたと思う。登下校と体育の授業くらいしか動かないから、いい運動になった。今日はよく眠れそうだ。
 近くにあったボールを一つ二つかごに放り込んでから、立ちくらみを繰り返さないようゆっくり立ち上がった。
 ボールはまだあちこちに転がっているけど、ネットもスコアボードもそのままでみんな移動しているから、私も同じように移動する。ミーティングが終わってから改めて片付けをするのだろう。
 平部員の人たちに混ざって移動して、マネージャー候補が集っている場所に加わる。間近でレギュラーの練習を見れたからか、みんなほくほく顔だ。
「あ、名前!」
 友達Bも例外でなく、語尾に音符でもついていそうな上機嫌ぶりである。
「でね、仁王先輩がね、」
 友達Bが嬉しそうに語ってくる仁王先輩の話に適当に相槌を打ちながら、はやく解散にならないかなと考える。疲れた、眠い。
 学年順に整列して一番後ろの列でぽけっとしていると、さっきまでの浮き足だった様子が嘘みいにマネージャー候補たちが一瞬で静かになった。何事かと前を見ると幸村先輩が立っていた。
 幸村先輩の後ろにちょうど太陽がある眩しさに目を細めつつ話を聞く。眩しさと眠気で思わず瞼が落ちそうになる。
「名字さん、こっちに来てくれる?」
 急に名前を呼ばれた。寝ていたことに気付く。
「あ、は、はい」
 うとうと眠りかけていたのがばれたのかな。でも前に立たされる理由が分からない。まさか見せしめ。なにそれむごい。
 内心震えながら前に出ると、幸村先輩の隣に並ばされた。やっぱり見せしめなの。
 そろりと横目で幸村先輩を伺うと、ゆるく微笑んだ横顔があった。
 綺麗な微笑みなのに、後ろ暗いことがあるからとても恐ろしい笑顔に見えてしまう。どうしよう、謝ったほうがいいのかな。
「今日はお疲れ様。片付けは部員でやるから、もう帰ってくれてかまわないよ」
 隣に立たされて何も言われないまま、解散しそうな流れである。ミーティングが終わってから怒られるのかな。どうしよう幸村先輩と一対一とか恐ろしすぎる。
「それと、明日からは来なくていいから。それじゃあ、解散」
 言われた言葉にびっくりして、思わず幸村先輩の顔を見上げた。変わらない綺麗な微笑み。
 明日から来なくていい、ということは、全員がマネージャー失格なのだろうか。
 マネージャー候補たちは困惑に顔を見合わせている。私も隣に立たされていることとさっきの言葉で二重に戸惑っていると、さらにびっくりする言葉が続いた。
「ああ、名字さんは明日からもよろしく」
 ぽんと肩を叩かれて、考えの読めない綺麗な顔で微笑まれる。
「……え、」
 一日目にして、テスト終了。合格者はどうやら私、一人だけ。うせやん。

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