06

 手の中のプリントに視線を落とした。内容は来月の活動計画。きっと今日配布する予定なのだろう。
 もしこっそり捨てるなんてしたら、枚数が足りなくなって困るかもしれない。平部員先輩に代わりに渡してもらおうなんて頼むのはお門違いだ。
 私がうっかり持ってきてしまったのだから、私が直接返すのが当たり前だ。やるしかない。
 よし、と小声で意気込む。不思議そうな顔の平部員先輩に頭を下げると、柳先輩を探すべく平部員コートを出た。
 きょろきょろと周りを見渡す。試合中のコートにはいないから、どこかその辺にいるはずだ。
「あ、」
 水道の近くに柳先輩の後ろ姿を見つけた。
 さっと行ってさっと終わらせようと、柳先輩に向かって少し歩いたところで、柳先輩の向かいに誰かいることに気付いた。幸村先輩だ。なにか話している。
 会話の途中に話しかける勇気はないし、イケメン二人を相手とるには心の準備ができていない。
 少し距離を取って作戦会議をしようとかかとを返そうとした瞬間、柳先輩の肩越しに幸村先輩とばっちり目が合った。
「どうかした?」
 幸村先輩の言葉に、柳先輩が振り向いた。慌ててさっき考えていた言葉を口にする。
「あ、えっと、これさっき部室の前で拾ったんですけど、慌ててそのまま持っていってしまってて」
 あれやばい緊張でちゃんと言えたか分からない。大丈夫かな。通じたかな。
「ああ、わざわざすまない」
 柳先輩の言葉に内心ほっと胸を撫で下ろして、プリントを差し出す。持っていた部分だけ少ししわが寄ってしまっているけど、そこは勘弁してもらおう。
 失礼しますと頭を下げて、平部員コートに逃げ帰ろうとした私の背中にちょっと待ってと幸村先輩の声がかかった。何か粗相があっただろうかと恐る恐る振り返る。
「えっと、名字さん?」
 指定ジャージの胸元に刺繍された私の名前を見て、幸村先輩は確認するように言った。
「は、はい」
 なにを言われるのかと身構える。
「試合、見に行かなくていいの?」
「ま、まだ仕事が終わってないので」
 愛想笑いでへこへこと頭を下げて、今度こそ逃げるようにその場から走り去った。
 仕事が残ってるのでと言ってしまった手前、手ぶらでウロウロするわけにはいかない。なにか仕事をもらわないと。平部員先輩に言ってみよう。
 それにしても私どもりすぎだったなと思うけど、先輩や先生とか年上の人に対しては大体いつもこんな感じなのだ。仕方ない。
 同い年や年下の人にはいつも通りなのになあと考えながら平部員コートにたどり着くと、入り口近くにいた平部員先輩に話しかける。
「あの、なにか仕事ないですか」
「あーじゃあ、ボール拾い手伝ってもらってい? 俺らも気をつけるけど、ボール飛んでくるかもしんねえから、注意しろよー」
 無事に仕事ゲット。ボールに注意、と頭に刻んで、打ち合いをしているコートの端に向かった。

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