残るコートは一面。じんわりと浮かんだ汗を手の甲でぬぐって、バケツの中の草を着々と増やしながらコートを進む。 ぐるりと一周して、最後に根の深い草を抜くときに掘り起こした地面をスコップの背で平らにして、終わり。 疲れからか始めより仕上がりが雑になった気がするけど、たぶん気のせい。 バケツを運ぼうと立ち上がると、ひどい頭痛がした。急に立ち上がったからかな。今日は日差しが強いから、そのせいもあるかもしれない。 少しすれば治まるだろうとじっと待っていると、じわじわと視界の端から黒くなっていく。足元が覚束ない。あれ、やばいかも。 「うわ、危ねえ。大丈夫か?」 腕が誰かに掴まれたと思ったら、世界が戻ってきた。顔を上げると、鮮やかな赤い髪。丸井先輩だ。 「お前、休んだほうがいいんじゃねえの。なんか顔色悪いし」 「す、すいません、大丈夫です。ありがとうございます」 「なら、いーけど」 そう言った丸井先輩に小さく頭を下げると、草の入ったバケツを持って早足にコートをあとにした。 先生然り先輩方然り、年上と話すのは苦手なのだ。だから、いつも愛想笑いとすいませんありがとうございますで当たり障りなく会話を終わらせる。 「よいしょ、」 今まで集めた草の上に最後のひとかたまりを乗せた。こんもりと草の山になっている。達成感。 見映えのよくなったコートを振り返って額の汗をぬぐっていると、ふと違和感に首を傾げた。レギュラーコートと平部員のコートを見比べる。なにか違うような気がする。 「あ、」 分かった。平部員のコートには一人もマネージャー候補がいないのだ。レギュラーコートにはかえって邪魔なくらいたくさんいるのに。 平部員のコートを何とも言えない表情で見つめていると、タオルで汗を拭いていた平部員の三年生と目が合った。 あ、と気付いたような顔をすると、タオルを片手にこちらに走ってくる。 何かやらかしたかな、と不安に思っていると、目の前に来た平部員先輩がばしばしと肩を叩いてきた。地味に痛い。 「お前、草むしりやってくれた奴だろ?」 「は、はい」 恐る恐る返事をする。怒られるのかな。もしかして、雑草じゃなくてわざわざ植えた草だったのかもしれない。 不安に思いながら先輩の言葉を待っていると、予想に反して先輩は人好きのする笑顔を浮かべた。 「まじ助かるわ。いつも自分たちでやってたから、すげえ嬉しいし。ありがとなー、仕事頑張れよ」 一方的に言い終わると、じゃあと片手を挙げてコートに戻って行く。 瞬く間にやって来て帰っていった先輩の背中を見届けて、はっと我に返る。それから、真っ直ぐな感謝の言葉を思い出してじんわり嬉しくなった。 頑張ろう、と思った。単純だとは思うけど、私は誉められて伸びるタイプなのだ。 緩む口元をそのままに、次の仕事を探すために歩き出した。 |