02

 適当に授業を終えて掃除をして先生とさよならすると、友達Bにスタバを奢ってもらおうとリュックを背負って立ち上がる。
 あれ、そういや何でおごってもらえるんだっけ。
 首を傾げて考えるけど思い出せない。まあ、いいか。コーヒーと甘いものが私を待っているのだ。
 少しの憂いを滲ませながら部活に向かう友達Aに手を振って、スタバスタバと歌いながら友達Bを待つ。どこに行ったんだろう。終礼が終わったら急にどこかに消えたけど。あ、帰ってきた。
「もー、名前もジャージ着替えてきてよ!」
「え、なんで? スタバ行くんでしょ」
「なんでそこしか覚えてないの。今日からテニス部のマネージャーだって朝約束したじゃん。スタバはまた今度!」
「あー、そだったね」
 そうだ、マネージャーを一緒にやる約束でスタバおごってもらえるんだった。忘れてた。なんて都合がいいんだ、私のブレインちゃん。
「ほら、はやく着替えてきて! 遅れたらやばいんだよー」
「はーい」
 ぱたぱたとスリッパを鳴らしてロッカー室に向かう。ジャージ持ってきてたかな。そのまえにロッカーの鍵持ってたかな。持ってなかったら帰っていいかな。
 飴とかリップとかでごちゃごちゃしたポケットを探ると、指先に冷たいものに触れた。鍵だ。持っていてしまったらしい。くそう。
 ポケットから鍵を取り出して、自分のロッカーを開ける。ジャージもしっかり上下揃っていた。
 しぶしぶ着替えて教室に戻ると、友達Bは廊下に出てまだかと私を待っていた。私が追いつく前に駆け出す。
「れっつごー」
 軽やかなステップで廊下を走る友達Bを気の進まない足取りで追いかけていると、しびれを切らした友達Bに手首を捕まらて引きずられるようにテニスコートまで連行された。
 部室の前に集まっていた指定ジャージを着た女子たちに加わる。まだ始まっていなかったみたいで安心した。副部長の真田先輩おっかない。部長の幸村先輩もいつも笑ってるけど何かこわい。
 マネージャーは全部で15人。そんなに要らなくないかな、と思っていると 部長副部長その他のレギュラーさんたちがやってきた。
 きらきらイケメンオーラはんぱない。でも威圧感もすごい。イケメンこわい。
 点呼を取ってから、部長さんの説明が始まった。あとで友達Bに教えてもらえばいいかとぼけっとしていると肘でつつかれた。他力本願はだめですかそうですか。
 仕方なく説明に耳を傾けると、どうやらマネージャーはまだ正式に決まったわけではないらしい。
 月曜日の今日から一週間マネージャーの仕事をしてもらって、その仕事ぶりを見てから正式なマネージャーを決めるという。いわゆる入部テストというやつか。
 つまり。適当にやったら不合格でマネージャーならなくて済むんじゃ、と内心にやりと笑っていると、わざと落ちたらおごるのなしだから、と声をひそめた友達Bに言われてしまった。ぐぬぬ。

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