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 テニス部がマネージャーの募集を始めたらしい。5月の終わりのことである。
 そのせいで朝から掲示板の前に人だかりができていた。眠たい目で人混みをなんとかかき分けて教室にたどり着くと、自分の机に座る前に歓喜と絶望という正反対の表情を浮かべた友達ABに囲まれた。朝からどうした。
「ね、名前、わたしとマネージャーしようよ!」
 さっそくその話か。まあ、この学校のほとんどの女子はもれなくテニス部に夢中だから仕方ないのかな。この二人も例外ではなく、入学早々テニス部のファンになっている。
 確かに我が私立立海大附属中学校のテニス部レギュラーはイケメン揃いだ。けど、性格に難ありだったり変わっていたりだから私はあまり関わりたいとは思わないのだ。
「やだ、めんどい」
 ばっさりと切り捨てると二人の間を抜けて自分の席につく。筆箱と教科書を机にしまっていると、前の席に座った友達Bが食い下がる。
「お願い! 一人じゃ心細いんだって!」
「別に私じゃなくてもいいじゃん」
 そう言ってちらりと隣の席に座った友達Aを見ると、絶望を顔に浮かべたままため息まじりに呟いた。
「……あたしの部活、覚えてる?」
 ああ、そういえば友達Aは吹奏楽部だった。私の学校の吹奏楽部は全国大会の常連校で、運動部並みに厳しいと評判だ。土曜日は一日中練習だし、朝練だってある。
「マネ募集するって知ってたら、もっと楽な部活入ってたのに、」
「どんまい」
 かける言葉もない。立海は必ず一つは部活に入らなくちゃいけないから帰宅部は無理だけど、私や友達Bみたいに月に一回しかないような部活だったらよかったのにね。
 ぽんぽんと肩を叩いてやると、よけい項垂れてしまった。
「だから、名前しかいないんだって!」
「えー」
 いまだに食い下がる友達Bをどうやって説得しようかうんうん考えていると、悪魔の囁きが聞こえた。
「スタバおごるから! ケーキもつける!」
「……本当?」
 ちょろいなと友達Bの表情が言っているけど気付かないふり。コーヒーと甘いものの前では私は無力なのだ。
「分かった、いーよ」
 しぶしぶ折れた風を装ったつもりが、声色は少し弾んでしまった。不覚。友達Bがにやにやと嬉しそうだ。
「でもさ、募集してる人数って各学年から5人ずつじゃなかった?」
 やっと立ち直った友達Aの言葉に、友達Bはばっちぐーと笑う。
「うん、だからもう申し込んどいた!」
 仕事はや。私が断固として断っていたらどうしたんだろう。と、いうか。
「え、5人とか少な。私よりやりたい人いたんじゃ……」
「そりゃいただろうねー」
「……名前、嫌々やってるなんてばれたら、」
「こ、殺される……!」
 ぶるりと震える。さっきとは反対に友達Aに慰められているとチャイムが鳴った。
 自分の席に戻っていく友達ABの背中を見ながら、先行きを思って少しだけ泣きそうになった。

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