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あとひよポッキーゲーム

今日は11月11日。いわゆるポッ◯ーの日だ。俺はポッ◯ーより最後までチョコたっぷりなト◯ポの方が好きだったりする。至極どうでもいい。

お菓子会社の陰謀に乗せられていることに気づいているのかいないのか、学校、部活に大盛り上がりだ。学校では跡部さんにポッ◯ーを渡したい女子達が獲物を狩るような目をして跡部さんを探してるし、部活では主に芥川さんや向日さんたちが後輩達にポッ◯ーをたかっていた。
ポッ◯ーの日というだけでどうしてこんなにも盛り上がれるのだろうか。

ところでポッ◯ーゲームというものをご存知だろうか。大体の人に浸透しつつあるこのゲーム…ポッ◯ーの両端を2人で咥え食べながら顔を近づけていき途中で切った方が負けというもの…を、俺は跡部さんとやらなくてはならなくなってしまった。
経緯はとても単純。忍足さんと向日さんがポッ◯ー自体食べたことなかった跡部さんにポッ◯ーを渡した時にこのゲームについて入れ知恵したのである。俺としてはなんていらないことをしてくれたんだ、と今にも怒りで発狂しそうなのだが、律儀にも跡部さんはその知識を今日まで覚えていたらしく、俺にこう強請ってきたのである。

「おい、若。今年の11月11日はポッ◯ーゲームをやるぞ。」

これに加えて、お前ならできるよな?これもお前の言う「下剋上」の一環になるだろ?…と勝ち誇ったように口元に弧をえがきなから言われたらやるしかないじゃないか。挑発に乗せられたと気づいたのは全てが決まって3分ちょっと経った頃だった。

今更後悔したってもう遅い。俺は実は未だに跡部さんの顔に慣れていない。男のくせにパーツが整いすぎている。だから間近でみたくない。最近はマシになったがテニス部に入りたての頃はまともに顔すら見ることができなかった。こんな話をすると想像できないだろうが、俺と跡部さんは所謂恋人同士だったりする。その経緯については割愛させていただくのだが。そのせいもあるのか、柄にもなくとても緊張している。手汗がすごいことになってきた。

そんなこんなで跡部さんにポッ◯ーゲームをするためだけにあの日本離れしすぎている跡部さんの家に連れ込まれた。跡部さんの部屋に入ると、跡部さんは早速ポッ◯ーをカバンから出した。今年も跡部さん曰く雌猫たちからたくさんのポッ◯ーを貰ったらしく、しばらくはポッ◯ーに困らなさそうだ、とちょっと嬉しそうに言っていた。ああだからそんな風にはにかむような笑い方やめてほしい。無駄に様になってるのがムカく。

そうこうしているうちに跡部さんは着々と俺とポッ◯ーゲームをする準備を進めていた。しかし、何故かポッ◯ーを俺の方へ差し出している。俺にこれを咥えて跡部さんの方を向けというのか。そんなことできるはずがない。跡部さんはやると決めたら絶対に自分からは引かない人だと分かっているから、諦めることにした。目を瞑ればなんとかなるんだと自分に言い聞かせなんとか目を瞑りながらポッ◯ーを咥えることに成功した。今きっと顔は真っ赤なのだろう。顔が火照ってきた。

そしてはやくしてくださいという意味を込めて強めに目を瞑ると跡部さんはそれが合図とでも言うように俺が咥えているほうと反対側のポッ◯ーを咥えた。

俺は恥ずかしいし折ったら何されるか分からないという恐怖から、咥えるだけ咥えて全くかじることができない。しかし、跡部さんはどんどんポッ◯ーをかじっていく。跡部さんがどんどん近づいてくるのがなんとなく分かる。やめろ。こっちにくるな。

すると、突然跡部さんは自らポッ◯ーをボキッとそれはもう豪快に折った。さすがにびっくりして、ガチガチに瞑っていた両目を開けてしまった。そして途端に視界いっぱいに広がる跡部さんの整いすぎた顔。俺は恥ずかしくなって顔を逸らそうとするが跡部さんが手で顔を固定してしまったせいで動かせなくなってしまった。

跡部さんの顔が段々近づいてきている気がする。さっきも言ったと思うが、俺の顔はきっと今真っ赤である。男の真っ赤な顔だなんてきつい気がする。一瞬唇に何かふわっとしたものが乗った気がした。

…このふわっとしたものの感覚を何回か感じたことのある俺はそれが何かすぐに分かった。跡部さんは男だと言うのにバラの香りのするリップを毎日欠かさず付けているのである。だから、男特有のあのガサガサした感じが全く無いのだ。

今にも恥ずかしくて昇天しそうだ。しばらく全く動けなくなった。

「お前ずっと目瞑ってたけど、あれキス待ちの顔にしか見えなかったからついポッ◯ー折っちまったぜ。」

こんなことを言われてもしばらく反応できなかった。意味を把握した時に恥ずかしさが限界を越えて涙が出てきた。さすがに跡部さんも驚いたらしく少し挙動不審になっていた。

「おい、そんなに俺様とポッ○ーゲームできて嬉しかったのかよ?」

…嬉しいに決まってるじゃないか。でもそんなこと言えるはずがない。いつも嫌味な言葉しか口からは出てこないからそろそろ愛想尽かされるのではないか、とたまに不安になる時がある。言葉では言えないのなら今日くらい態度に出してみればいいのでは、といつもなら考えないようなことまで頭に浮かぶようになっていた。

そんな俺は、勇気を振り絞ることにした。もし跡部さんは俺と遊びのつもりで付き合ってるのだったらそれでいい。今は俺だけを見て欲しいと思った。そして、俺は普段慣れていないから機械のようにぎこちなく、跡部さんの肩に顔を埋めてみた。跡部さんは普段俺がこういうことを全くしないためかこれまたびっくりしたらしく体を一瞬強張らせたが、すぐにその両手を俺の背中に回してきた。俺はさらに恥ずかしくなり、顔を跡部さんの肩の下くらいに埋めた。顔の熱さは中々引いてくれない。むしろ、どんどん上がってきてる気さえする。何故か涙が止まらなくなっていた。跡部さんのいかにも高そうで質の良さそうな部屋着に俺の涙がじわりと広がった。服を汚してしまう申し訳なさともっとそばにいたいという気持ちがごちゃごちゃになって訳が分からなくなってきた。

そんな俺を見兼ねてか、跡部さんは俺の頭をぽんぽんと優しく撫でてきた。本当に申し訳ないけど、どこか嬉しく思っている自分がいることに気づいて不思議な気持ちになった。

「どうしたんだ今日のお前は、やたら素直じゃねえか。俺に抱きついてくるだなんていつもより大胆じゃねえの。」

俺だってなんでこんなことになってるのか教えてほしい。この時初めて跡部さんの背中に手を回していることに気づいた。いつの間にこんなことしてたんだ。慌てて手を離そうとしたら、跡部さんが強く抱きしめてきた。手を離した所で跡部さんからは離れられないことが分かったから、そのままにしておくことにした。

このままの状態でどれくらいの時間が経ったのだろう。俺には十分くらい経った気がするが、もしかしたら一分くらいしか経ってないのかもしれない。段々慣れてきて、顔が熱く感じなくなっていた。
「そろそろ落ち着いたか?」
跡部さんは俺が落ち着くのを待っていたらしい。俺ははいと答えた。さっきまで泣いていたせいか声が少し鼻声になっていた。
「はっ。いつもの威勢はどこに行ったんだ?」
…やはり勝ち誇ったような顔をしている。少しムッとした。
「悪かったですね。いつも通りじゃなくて。」
「別に悪い訳じゃねえよ。むしろ俺からしたらやっと甘えてきたかって感じだな。」

こんなこと言わないでほしい。しかも珍しくすごい顔が緩んでいる。天下の氷帝男子テニス部部長とは思えないくらいだらしない顔をしている。今なら少しは甘えてみてもいいのだろうか。いつも甘えるなどほとんどしないためどういう行為が「甘える」に入るのかイマイチ分からない。跡部さんに取り敢えずくっついてみることにした。今だけは俺だけのものでいてくれと願いながら跡部さんの背中に腕を絡ませてみた。案外普通にできたから自分でもちょっとびっくりした。

そこから気づいた時には自分から跡部さんの唇に自分のそれを押し当てていた。自分でも何がどうしてこうなったのか全く見当がつかない。気づいた時にびっくりして目を開けてみるとこれまた幸せそうにしている跡部さんの綺麗な青い目と目が合ってしまった。何故かそこに縫いつけられたかのように視線を外すことができなくなってしまった。

俺だけが上擦った声を出してるのがまた悔しい。でも、いつもみたいにすぐに離そうとは思えなかった。

ほっておくと跡部さんはどんどん調子に乗っていつまでも唇を離してくれないからいい加減苦しくなってきた。はやく離せという意味を込めて手をドンドンと跡部さんの体に押し付けてみた。普段ならこうすればすぐに離してくれるのに、今日に限って離してくれる素振りすら見せてくれない。そろそろほんとに苦しい。

さっきよりも力を込めて叩くとなんとか離してくれた。一気に頭がぼーっとしてきて瞬きを繰り返してしまう。いきなり支えをなくした俺は結局跡部さんに体を委ねるようにもたれかかってしまった。
なんだか気まずくて慌てて離れようとするが、跡部さんの腕がそれを許してくれなかった。跡部さんはどうして自分にこんなに構ってくれるのだろうか。他の人よりも格段に可愛らしくないといつも言われている俺に。できたら同情なんてされたくはない。

「若、また余計なこと考えてるだろ?」

…考えてないです。とは言い切れない。跡部さんの将来とかを考えると、いつか別れの日が来ることはとっくに分かり切っている。

「言っておくが、俺様はお前と別れるつもりなんざねえからな。精々黙ってこうされときゃいいんだよ。」

…なんで考えてることがバレてるんだ…!

「お前が考えてそうなことなんて俺のインサイト…いや、インサイトにかけなくても大体分かる。」

今ちょっと心臓がギュッてなった気がする。…認めたくはないが。滅多に口に望みを口に出さない俺が考えていることを理解してくれているだなんて思っていなかった。ほんとに悔しい。俺は跡部さんの前ではテニスでも普段でも全く太刀打ちできた試しがない。ますます下剋上してやりたくなってきた。

「今日はお前の言うこと何でも聞いてやる。さあなんでもどんとこい!」

いきなりこんなこと言ってきたからびっくりした。相変わらずどういうつもりでこんな事言ってるのか皆目見当がつかない。そういえばそろそろ眠たくなってきた。部屋に置いてある時計を見てみると、もう日にちをまたぎそうな時間になっていた。もういい、こうなったらやけになるんだ。

「…跡部さんと…いっしょに寝たい…です…」
「…もうこんな時間か。遅くまで起こさせて悪かったな。」

そう言うや否や跡部さんはすばやく俺の体をふかふかのベッドの中に優しく入れて、次いで跡部さん自身も布団の中に潜り込んだ。跡部さんが俺の両腕を握ってきた。もう少しだけでいいからこのままでいたい。俺は緊張の糸がほぐれたのか急に眠くなって寝てしまいそうになった。

すると跡部さんが俺の頭をぽんぽん撫でてきた。無駄に心地よい撫で方のせいで、恥ずかしいけれど跡部さんとの時間を増やしたかったのに、余計に眠たくなってしまった俺はいつの間にか意識を夢の中に落としていた。


やたら不安になってる日吉の話でした。途中から収集つかなくなって文が支離滅裂に…\(^o^)/

2013.11.27



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