コンビニデート


いつも通り先輩たちにパシらされて大人しく寮の最寄りのコンビニに向かう俺、えらい。今日は確か…いつものコーラと、期間限定塩キャラメルプリン…を買ってこないといけない。倉持先輩には二リットルコーラを頼まれてるからそれも買わないといけない。二リットルとか嫌がらせかよ、ちきしょう。面倒なことこの上ないけど、買ってこないと倉持先輩からのプロレス技10連発が待ってるから大人しく買う。あれほんっと痛いんすよね。

五分の距離というのは思っているより短いみたいで、いつの間にかコンビニの前に着いていやした。いつも通りのおばちゃんの店員さんに迎えられ、俺は期間限定モノだという増子先輩に頼まれたプリンを探すためにスイーツ売り場に一直線!脇見せず真っ直ぐに!

するとどうでしょう。どれか分かりやせん!!!プリンのパッケージってどれもごちゃごちゃしてて区別つかないんすよね。どうしよう!えっと名前は…塩キャラメルプリン…だったっけ?あ!それっぽいの発見した!やった!ご丁寧に「期間限定」まで書いてるから絶対これだ!

後は倉持先輩に頼まれた二リットルコーラだ。これはいつも買ってるからすんなり見つけて取ろうとした。したんだけど!

飲料水コーナーからちらっと見える雑誌コーナーになんか見覚えのある背中がある。あいつはまさか、御幸か?

って、はああ!?

なんで御幸一也がいるんだよ!!!いつもこんなとこいねえじゃねえか!なんでそんなとこでマンガなんか読んでんだ!なんでだよ!俺が固まってる間に向こうは俺に気づいてしまったらしく、こっちを見たと思ったら、めちゃくちゃいい笑顔したあとにまさにニヤリといったような表情に変わりやがった!

その視線は俺が持っている荷物に注がれていた。くそっ、お使いに駆り出されたのバレた。

『へえ〜沢村、パシられてやんの?』

ほらっ、思ってた通りだ!なんか悔しい。

「そうっすけど、アンタは一人で何やってんすか?」

だから言い返してやった。「一人」のところをわざと強調して。

『んー。たまにはマンガ読むのもいいかと思って。それよかお前、俺の質問に答えろ?』

んぐうう!

「ええそうですよ!パしらされてんですよ!悪いか!?」

開き直ってやった。だって多分御幸も一年の時はパしらされてたはずだし。そういえば、降谷はパしらされてる時なんか嬉しそうな顔してるけどなんでなんだろうか。もしかしてマゾとかいうやつなのか?

『いや、悪いとは言ってねえよ。ただ重そうだなって思って。』

まさか御幸からそんな言葉が出てくるとは思わなかった。まるで俺を気遣うような。野球やってる時もキツいのはキツいけど、ちゃんと俺のこと心配した上で意見を言ってくれてるのが分かるからいい。でも、普段でこんな気遣うようなことを言ってきたのは殆ど無いから戸惑ってしまう。

そんなことを思い出してなんか今日の御幸は変だなって思ってたら、御幸は「あ、いいこと思い出した。」とか小声で言いながら持っていたマンガをあっさりと元に置いていたであろつところにしまい、俺に近づいてきた。さっきからのこのにやけ顔、絶対ろくなこと考えてねえな。

『なあ沢村、それ買ったらさ、袋の持ち手片方ずつ持たねえ?』

ほら、言わんこっちゃない!袋の持ち手の片方は俺が持って、その反対側は御幸が持つっていうことだよな?


実はですね、今更こうやって改まって言うのも変だと思うんですけどね、俺と御幸、「お付き合い」と呼ばれるものをしてるんですよ。恋愛的な意味で。とってもとても悔しいんですけど、俺は御幸が大好きみたいなんすよ。本当に悔しい。どうしてそうなったとかの理由は省略させてもらいますけど、その、ほんとに御幸が好きみたいなんです。だから…何を言いたいかと言うと…


今の俺、多分顔が真っ赤なんですよ!ああちきしょう!おのれ御幸一也!!!だ、だって、袋越しとはいえ、俺と御幸が隣同士で歩くっていうことでしょう!?部活とかではけっこうあるからなんとも思わねえけど、こうやって改めて考えるとすごい恥ずかしい。

『ははっ、沢村顔真っ赤!そんなに嬉しかった?』

そりゃあ、うっ、嬉しいに決まってんでしょうが!ただでさえ寮生活だから、二人きりになれる時ってあんまり無いんすよね。でも、ここは寮の近所のコンビニ。万が一にも寮生に見られたら面倒なことになってしまう。俺たちの関係は誰にも言ってないからバレたらどんな目にあうか分からない。

「う、嬉しいわけないでしょう!?そんなこと、俺はやりやせんよ!」

ああ!また思ってることと反対のことを言ってしまった!しかし、今回はこれで良かったのではないだろうか?だって、これで寮生のみんなにはバレずに済むだろうし。

『お前今猫目なってんぞ?というのはおいといて、俺がやりたいの。なあ、お願い、たまにはこういうことさせてくれよ?』

お願いって手まで目の前で合わせられても困る。これだからイケメンは困る。思わず頷いてしまいそうになった。俺があたふたしてる間に御幸は俺の手にあったプリンとコーラをサッと取り上げ、預かってるお金頂戴?と俺に訪ねてきたからそのお金を渡すとさっさとレジに消えてしまった。


そして御幸は手をちょいちょいとして俺に来るように促してきたから、俺はしょうがなく御幸がいるコンビニの外の方まで来てやった。

『ほれ、こっち持って。』

プリンとコーラが入っている袋の持ち手の片方を差し出してきた。反対側は御幸が持っている。

こうやって改めて出されると緊張してきた。中々持たない俺にしびれを切らしたのか、沢村、と急かしてきた。


仕方ない。今回は流されてやろう。いや、俺も嬉しくないわけじゃないけど、だって、恥ずかしい。そもそも男相手になんでこんなに恥ずかしくなるんだろうか。降谷とか倉持先輩とかで同じような状況になったらって考えてみてもピンとこない。御幸だからっていうことなんだろうな。

おずおずと袋の持ち手を持った俺に御幸は満足したらしく、

『ははっ、ありがとう、嬉しい。』

って言ってきた。御幸はすぐに下を向いたけど、髪に隠れ切れていない耳がいつもより赤い。下を向く前にちょっとだけ御幸の顔が横からだけど見れたけど、いつものキリッとした表情はどこにいったんだってくらい目元は下がってたし、口元もゆるゆるだった。

もしかして、これって御幸が照れてるってこと?俺だけじゃないってこと?そうだったらとても嬉しい!現金にもこれだけで俺の機嫌は良くなってしまった。

「御幸先輩、もしかして嬉しいんですか?」

『そうだよ、悪いか。』

いつもより小さい声で呟く御幸先輩。そんな先輩って滅多に見れないから、俺の表情筋絶対にゆるゆるになってる。はやく帰らないと先輩のプロレス技が待ってるのは分かってるんだけど、もうちょっとこのままでいたいなんて思ってしまう。だから、俺は思い切って言ってみる。

「ねえ先輩、もうちょっとゆっくり歩きませんか?」

さっきまでは俺もあんなた嫌がってたのにいつの間にかもう少し先輩と一緒にいたいだなんて。俺ってさっきも言ったけど、ほんとに現金だな。まあ、思い切ったこと言って先輩のこんな顔見れるんだったらいいか。それにしても、こんな顔俺以外の前でしてたら嫌だな。顔だけは不本意だけど本当に恰好いいから変な虫が付いちゃいそう。

2015.02.02

青心寮のみなさんは二人がお付き合いしてるの知ってます。バレてないって思ってるのは沢村だけ。御幸は周りにバレてるの知ってるし隠しもしてない。中々お付き合い始めたのはいいけど先に進めないヘタレな御幸が精一杯の本気を出した結果。リードしたいけど野球以外は不器用でうまくいかない御幸。おいしいです。




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