初詣


今日は一月一日。元旦。部活は正月休みだし、基本的に冬休みは実家に帰るという寮の方針に則り、僕と兄貴は一緒に十二月中に帰省した。年越しはこたつの中で毎年恒例の歌合戦と笑ってはいけない番組を交互に見ながら越した。兄貴は去年中に難なく大学に合格したからとてものんびりとした年越しだった。

元旦に雪が降るのはとても久しぶりな気がする。雪といってもしんしん降るんじゃなくて、ごおごおと風が嵐のように吹いてるんだけども。元から寒いのに、風のせいでもっと寒く感じる。
昔正月に雪が降った時は風が無かったから、兄貴と雪合戦をした気がする。兄貴はあの時から手加減なんてしてくれなくて、でも負けたくなくて、半ばムキになりながら応戦してた気がする。

せっかくだし初詣も一緒に行く?と兄貴が誘ってくれたから一緒に初詣に行くことになって、近場とはいっても自宅から歩いて二十分くらいかかる神社に向かって歩いている。雪も降ってるし風も本当に強くて、いつも隠している前髪が風に煽られて丸見えになっているんだろうなと思う。

「ね、春市。昔正月に雪合戦したこと覚えてる?」

まさか兄貴も覚えてたとは考えてなかった。忘れたとは言わせないよと兄貴の顔にありありと書いてあるけど、今考えてたことだ。忘れてはいない。

「覚えてるよ。兄貴容赦なかったよね。」

でも、幼稚園に入るか入らないかくらいの時のことだから兄貴がめちゃくちゃ強かったことくらいしか覚えていないような気がする。

「春市相手に手加減なんかするもんか。あの頃の春市はほんとにどこまでも後ろに付いてくるからかわいかったのになあ。」

今もそうなのかもしれないけど、どこまでも付いていってた自覚はあるからなんともいえない。

「それにしても…あの時の春市、俺が投げたの当たりまくってるのに真っ赤な顔で半泣きになりながら、亮ちゃんに負けないもん!って小さい塊の作って投げてたから今思うとほんとかわいかったよ。」

「か、かわいいとか、あ、悪趣味だなあ!でも、兄貴途中で切り上げてくれたよね?」

いきなりかわいいとか言われたからびっくりしてどもっちゃったけど、大体思い出した。

あの日、地面に積もる雪と兄貴から飛んでくる雪の塊に責められてどんどん体力が奪われていってるのも気にしないで応戦してたから、フラフラになってたんだ。そしたら、急に兄貴が雪の塊を投げるのを中断したからなんでだろう?って思ってた隙にこっちまできて、俺の手をもう投げさせないとでもいうみたいに強く握ってきたんだ。手袋越しだったからほとんど兄貴の手の暖かさは分からないはずだったのに、その時は兄貴の手が、手袋越しでも雪の塊を作ってたからやっぱり氷のように冷たくなった僕の手を温めてくれてるって思ってたんだっけか。
「春市、今日は終わりにして、明日からまた勝負しようか?」
何故かその言葉を聞いた途端に涙が止まらなくなった。勝てなくて悔しい、まだできるのに、やっといつも通りの兄貴に戻ってくれた、とかいろんな気持ちがごちゃまぜになってたんだと思う。ただひたすら雪の塊を楽しそうに投げてたのだけども、幼いながら相手を封じたいっていう意志が伝わってくるものだから、いつもの優しい兄貴とは程遠く感じて、初めて兄貴を怖いと思った。

ぼろぼろ泣き出した僕を見て、昔から僕は泣いてばかりだったからだろうけど、兄貴は特に驚きもせずにほら行くよと僕の手をそのまま引っ張って一緒に歩き出した。ちょっと強引に手を引っ張ってるんだけど僕の歩調に合わせて歩いてくれていたから全然しんどくは無かったんだ。家に帰る頃には涙はすっかり引っ込んでたんだけど、泣いたせいで目が真っ赤に腫れてたみたいでお母さんには泣いていたのがばれていた。どうしたの?と、聞かれても兄貴が怖かったからとは言えなくてだんまりを決め込んだ僕に痺れを切らした兄貴は、「一緒に雪合戦やってたけど俺が本気出しすぎただけだから気にしないで。」とお母さんに言っていた。お母さんはまあ…!って言ってしばらくうんうん考えた後に、「じゃあ二人ともがんばったのね!今日の晩御飯はハンバーグにしようか!」と、とても嬉しそうに言っていた。その日の晩御飯は本当にハンバーグだったんだけど、とてもおいしかった。



そんな風にちょっと昔のことを思い出してると、急に手袋も何もしていない冷たい兄貴の手が僕の頬を抓ってきた。いきなりだったからうひゃっ!って変な声が出てしまった。

「ぷっ。面白い声。さっきからずっと呼んでるのに反応もしないで、何考えてたの?顔真っ赤だし。」

笑われちゃった。でも、あの頃から兄貴はなんだかんだで僕に優しい。今だって馬鹿にしたように笑ってるけど表情は優しいもの。厳しいことも数え切れないくらい言われてきたけど、大体僕のことを思ってくれて言ってることだって分かってる。

「兄貴ってやっぱり昔から優しいね。」

ちょっとだけ言い返した気分。でも、やっぱり恥ずかしい。兄貴の方を見るとぽかんと口を開けていた。兄貴のこんな顔、珍しい。でも、すぐにいつものように嫌味ったらしくこう言ってきた。

「俺は優しくなんてしてるつもり全然無いけどね。」

そんなことを喋りながら歩いてるうちに目的地の神社に着いた。お参りして、おみくじを引いた。もっと強くなって兄貴に認められますようにって自分自身で努力しないと叶えられないのは分かってるのにお願いしちゃったし、おみくじは中吉というなんとも微妙な結果だった。来年に期待しよう。

2015.01.06



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