栄純くんの話


いつだって栄純くんは前を向いてる。いや、たまに後ろを振り返ってる時もあるけど。どうも深く考えるのが性に合わないみたいで大体振り返るのをやめてすぐに真っ直ぐに前を向いて歩き出す。僕にはなかなかできない芸当だ。

栄純くんは本当に楽しそうにボールを投げる。全身で野球が好きだ!楽しい!って伝えてくる。普段の練習の時もそうなんだけど、マウンドに立って御幸先輩がボールを受けてくれてる時はもっと楽しそう。いつももそうなんだけど、思いっきり投げてるというか。言葉は悪いけど、御幸先輩もあんなどこに向かうか分からないボールをよく毎回全部取るなといつも感心している。

いつも見てて気持ちがいいくらいに笑う栄純くんに何回救われただろう。バカのくせに、僕に何か行き詰まってることがあったらすぐに気づいてしまう。

その度に、「春っちなら大丈夫!」って言ってくれる。もちろんあの裏表の無い笑顔付きで。びっくりするくらい確証が無くて何も考えないで言ってる風にしか聞こえないのに、段々本当に大丈夫なんじゃないかって思えてくるから不思議だ。

そんな栄純くんは、甲子園に行きたいっていう夢をこれからもずっと見続けるだろう。もちろん前を向いて。栄純くんのその指が、太陽に向かって突き出されるその瞬間を、僕は同じマウンドで見たい。

その時の栄純くんは、きっと眩しい。今の僕にはとてもじゃないけど直視できないんじゃないかな。でも、僕も今より強くなったらその光に少しは耐えられるんじゃないかって思う。そんな気がする。

さっきは栄純くんは振り返ってもすぐに前を向いてるって言ったけど、その瞬間を見るまで、栄純くんが振り返る時が何回来るかは分からない。でも、これは僕のエゴなのかもしれないけど、振り返ってるその時に諦めるようなことはしてほしくない。悔しくて、悲しくて、それだけじゃないこともあるだろうけど、負けないでほしい。もっと栄純くんが笑ってるところが見たいんだ。

もし、この先に栄純くんが悩んでるところにに遭遇したら、あの時の栄純くんが僕に言ってくれたみたいに、「栄純くんなら大丈夫」って言いたい。ありったけの気持ちを込めて。

僕がこの言葉で何回ももやもやが取れたみたいに、栄純くんのの中のもやもやが取れて太陽みたいな暖かい笑顔を浮かべるようになったら、いいなあ。太陽に雨が覆い被さっても、雨が蒸発しちゃうくらいの眩しい笑顔を。それで、いつもみたいに前を向いて、ひたすら真っ直ぐに、僕たちをその手で甲子園のその先まで導いてほしいんだ。


2014.12.26

私が大好きな「僕/の/太/陽」という曲を聴きながら書いてました。歌詞と似たようなことを書いてるところがたくさんあります。この曲を聴いて沢村だ!とピンときてしまい、これは春市目線の沢村への曲かなと錯覚を起こしてしまったのでそのまま書いてしまいました。



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