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しょりしょりとした不思議な食感は嫌いじゃない。見た目もさることながらこんな暑い日にはぴったりの食べ物だと思う。お酢を二周、醤油を一周入れたところてんは私の喉を滑り落ちていく。

「うむ、うまいな!」
「…一個聞いていいかな」
「ん?どうした」

私より一周多くお酢を入れたところてんを、とても美味しそうに、そして品よく食べる彼は、今日も涼しげな顔。

「なんでところてん?」

ちゅるりと透明なそれを飲み込んで、疑問を彼に投げかける。久しぶりのデートで、どこでもいいと言ったのは私の方だけれど、まさかそんな高校生の私たちがところてんを求めてお店に入るだなんて。いや、別にいいんだけれど、美味しいし。

「深い理由はない、だが涼しげなものをなまえと食べたかった」

にっと、いつもの自信満々な表情でそんなことを言うものだから、思わずどきっとしてしまった。尽八はキザなことをよく言う人だから、こんなこと普通なのかもしれないけれど、それでもやっぱり嬉しかった。

「それは、ありがとう…?私も尽八と出かけられて嬉し…」
「ところてんはいいぞ、栄養価はまあほとんどないが、食物繊維が多く整腸効果があってだな…」
「いや聞けよ」

外を見ればじりじりと太陽が照り付けていて、甘い雰囲気というものを期待した私が間違いだった。和の雰囲気が素敵な茶店は、お客さんは多いけれど騒がしくなくて涼しくて、心地よい。

「外、暑そうだね」
「ああ。疲れてはいないか?」
「大丈夫。尽八は?」
「俺を誰だと思っている」
「あはは、そうだね」

薬味の生姜がぴりっとして、舌を刺激する。ところてんなんて、正直どうして食べるか意味が分からなかったけれど、彼と食べたことで私のひとつの思い出になった。だから、意味なんていらないのかもしれない。話の内容だって本当に他愛のないこと。

「ところで尽八、8日誕生日だね」
「む、覚えてくれていたのか」
「私を誰だと思っている」

彼の話し方を真似して例の指さしをしてみせた。あ、これ、恥っずかしい。よくこんなことするな。私の好きな人なんだけど。

「や、やめろ!真似をするな!」
「あ、照れてる」

荒北くんが本当にたまに尽八の真似をしていたけれど、その時も照れていた気がする。覚えておこう。それにしても荒北くんの指さしは笑った。やっぱりこれは尽八にしかできない技(?)だと思う。ファンの女の子たちにサービス精神たっぷりなのは別に今更何も言わないけれど、少し、ほんの少しだけ妬くときだってある。これは絶対秘密だ。

「俺がするのはいい。荒北だけでなくなまえまで俺をからかうな」
「ごめんごめん、でもあれだよ。誕生日、忘れるわけないでしょ」
「む……」

口を引き結び、少なくなったところてんにまたお酢を加える。もう十分酸っぱいと思うんだけど。軽くそれを混ぜながら、上目気味で私の方をちらり見る。それに私の心臓が跳ねた。その涼しげな目はやっぱり、いつだって誰よりかっこいいと思う。無意識にそんな表情をしてみせるから、尽八はずるい。私はそれにめっぽう弱い。

「それは、…嬉しい。ありがとう」

今度は私の目をまっすぐ見て、少し笑って言ってくれた。細められた目が眩しい。私が彼を照れさせたと思っていたのに、その優しげな声に、目に、顔を赤くさせられたのは私の方。見慣れたつもりでいた彼の目。聞きなれたはずの彼の声。それらに私の脈が上げられているのは確かだった。このまま彼の、尽八の目を見ていたら、そんなわけないのに私が沸騰してどうにかなってしまうと思った。ぱっとお酢を取って、もうほとんど残っていないところてんに、二周も入れてしまった。今日もし尽八がキスをしてくれるなら、とても酸っぱいかもしれない、だなんて思う私の頭は沸いている。


20150808
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テーマ「人外ファンタジー」
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