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白くてふんわりとした生クリーム、その上には品よく飾られた赤い苺。柔らかなお日様色のスポンジに、嫌悪感を抱く女の子なんていないんじゃないか。私だって、普段ならそうだった。甘いものは大好きだし、誕生日ににはバースデーケーキが絶対食べたい。ケーキ屋さんの前を通ったら知らぬうちに意識はそちらに飛んでいるし、ホテルのスイーツバイキングだって何回も行った。だけど、だけど今はそんなもの嬉しくもなんともなかった。

「こんなので私は喜ぶと思われてるんだ」
「え、」
「気持ち悪い、こういうの」

目の前に置かれた箱の中身、まさかとは思ったけれど、予想通り真っ白なクリームにたくさんの苺が飾られたホールケーキだった。

「嬉しくない、帰って」

巻ちゃんの綺麗な顔が歪む。怒っているわけではなくて、悲しそうにするものだから、やめてと言いたくなる。そんな顔をしないでよ。それから目を逸らし、自分から遠ざける。あんなにあんなに大好きだった甘いものが、今はこんなに憎らしく思える。ケーキに罪が無いことは分かっているけれど、それは本当に事柄として分かっている、だけ。

(太りたく、ない…)

しょうもない理由だってことも頭では分かっている。拒絶する理由はそれだけではなかったけれど、彼にはそんなこと言わない。

「私、欲しいって言った?甘いもの、控えてるって言ったよね…?今日だけは、とかそんな、甘えた考えじゃないんだよ」
「なまえ、」
「巻ちゃんは、細いからそんなことができるんだよ。ほんとはこんなデブと付き合ってなんかいたくないよね、だから帰って、いらない、ケーキなんかいらないし、それを持ってきた巻ちゃんの顔も見たくない」
「お前が喜ぶと、思って…」
「なんのサプライズ?いらないって、言ったでしょ。早く帰ってよ、巻ちゃん…お願いだから」
「次、いつ会えるんショ」
「分かんない…」
「別に、俺はお前の見た目なんかどうでもいいショ」

それだけ言って、ぱたんとドアが閉まる音が後ろで聞こえた。それはずるいよ、ずるくて卑怯で気持ち悪いよ、巻ちゃん。そんな優しくてかっこいいこと言ったら、私の醜い部分が余計に見えてきて、ますます泣きたくなってしまう。貴方から離れられなくなってしまう。

テーブルの上にはケーキが置かれたままで、それを見たら食べたくて、食べたくなくて、吐き気がした。巻ちゃん。


20141223
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