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店内に入るとふわっとコーヒーの香りがした。試験勉強で疲れている脳に良い刺激を与えてくれる。今日は何を頼もうかといつもいつも迷ってしまう。勉強をしに来たのだから、いつもより少し苦めのものを飲もうかな。

「うーん、限定のラテ甘いかなあ…」
「俺はほうじ茶ラテだな!」
「東堂いつもそれだねー」
「みょうじはまだ決めてないのか、優柔不断はならんよ!」
「俺もまだ決めてないな」

先頭に並んでいた私と東堂の間から新開が顔を出す。今は試験期間中で部活はお休み。こういう時くらいしか来れないからと、勉強をするためスタバにやって来た。学校から近いため、店内には箱学生もちらほらといた。

新開と二人でメニューをにらめっこして、どれにしようかと再び考える。うう、シナモンロール食べたいけどみんなきっとフードは頼まないよねえ、一人だけそんなバクバク食べてたら、部活の仲間とはいえ私も女の子だ。多少なり恥じらいはある。

「俺はホワイトモカだな」
「あ、いいね。先いいよ」
「OK行かせてもらうよ」

まあ、きっとまた来るだろうし今日はいつも通りソイラテにしよう。新開の後に並んで注文する。笑顔の素敵な店員さんからフードを勧められるけれど今日はやめておこう。とっても食べたいけどメインは一応勉強だもんね。それじゃあと、期間限定のシフォンケーキの試食をくれた。甘くてとっても美味しかったけど、次回のお楽しみ。先に注文していた東堂と新開は店の隅、ソファの席を取ってくれていた。

「結局何にしたのだ?」
「私はね、ソイラテだよ」
「ほう、それは飲んだことがないな」

東堂は毎回頼むほうじ茶ラテを飲みながら言った。たまには違うのも飲めばいいのにと以前提案したら、ほうじ茶ラテの魅力について散々語られたので、それ以来とやかく言うのは遠慮している。東堂がこだわりがあるのと、意外と渋いというのは前々から知っていたけれど、ぎゃんぎゃんと語ってくるのはちょーっと面倒だったりもする。本人には言わないけれど!新開はというともう教科書を開いて勉強の準備をしていた。

「ところでおめさん、寿一と靖友はどこだ?」
「え、」
「そういえば遅いな、混んでるのか?」

そんなことないよ、私の後ろにいたもんー…そう言いながら私はレジの方を向いた。平日だしそこまで混んではいない…。

「「「あ」」」

私たち三人は思わず声がそろう。福富くんと荒北は、なぜかレジの一番後ろにいたから。ど、どうしてまだそこに、というか一番後ろに?私のすぐ後ろにいたはずの二人は元々険しい顔をさらに険しくしてメニューを見ている、いや、睨んでいる…?

「なあみょうじおめさん、あいつらとここ来たことあるか?」
「えっ、なかったっけ?」
「前回はファミレス、その前はあの二人は自主練をするから勉強会には来ていなかったな。その前もファミレスではなかったか?」
「東堂はないの?」
「あの二人と来たという記憶はあまりないかもしれんな」
「俺もだ」
「つまり」
「「注文の仕方が分からない(のだろう)」」

う、嘘…。そうだっけ?前も勉強会でここに来たことはあったけれど、確か福富くんも荒北も思い出せばいなかった、ような…。女友達とはよく来るけど、自転車部では意外とファミレスとかの方が多かったりもするし…。今日行こうよって誘ったときあの二人だけあまり乗り気じゃなかったのは、そういうことだったの…?

「わ、私ちょっと行ってく…」
「まあ待てみょうじ」
「でも、新開」
「あの二人が何をどう頼んでくるのか見てみたいではないか、放っておけ」
「東堂まで…」

この二人は心配するでもなく、面白がっていた。新開に至っては開いたはずの教科書を閉じてなぜかメニューを睨む二人を写メっている。こら、やめなさい。音無しだから大丈夫だ、とウインクしてみせても駄目だからね。東堂は私が新開を怒っている隙に私のソイラテをずずっと飲んでいた。こら、まだ私飲んでないのに!!というか、私女の子だよ、色々気にしてよ!

「うむ、なかなか悪くないな。俺のほうじ茶ラテも飲んでいいぞ」
「いりません!」
「そうか、じゃあ俺がもらうよ」

この二人はチームメイトのピンチを救ってあげようとかそういう気持ちはないのかな全く…。ひとまず私も自分のドリンクを一口。…さっき東堂が(勝手に)飲んでいたけれど。福富くんも荒北も、なんでもいいから頼んでさっさと来ればいいのに、そりゃあ私だって初めて来たときはそんなに上手にすらすらーって注文なんかできなかったよ。でもそんなの全然気にしなくていいのに…。見ていられなくてやっぱり私は二人の方へ行くべく席を立ちあがる。

「…をください」
「かしこまりました。お客様サイズはどうなされますか?」
「え、エムを」
「トールでよろしいですか?」
「トール…」
「こちらになりますけれども」
「はい、それで…」

あれ、福富くん、ちゃんと注文できてるじゃん。新開も東堂も馬鹿にしすぎだよ。私もまあ、いらぬ心配だったかな。高校三年生だし子供じゃないんだから当たり前といえば当たり前なんだけど。荒北も福富くんと一緒に待ってるから、きっと何か頼んだのだろう。よかったよかった。でも、何を頼んだのかな。ちょっと気になるかも。

「なんだあの二人、もう注文したのか」
「意外と早かったな」
「何頼んだと思う?私はね、福富くんはココアだと思うな」
「あー、寿一は慎重派だしな。靖友は?」
「荒北か、無難にドリップコーヒーなどではないか?」
「荒北ブラック飲めるの?」

好き勝手話しながら待っていたら、背後からトレイを持った二人がやって来た。その上にあったのはー…

「ね、ねえそれ」
「寿一!」
「荒北!」


「俺たちのオーダーだが…」

福富くんが満足そうな顔で自分のトレイを見ながら口を開く。

「ばにらくりーむふらぺちーののトールサイズを、もかしろっぷに変更、へーぜるなっつしろっぷを追加だ」

間髪入れずに荒北が続ける。

「それにチョコソースとチョコチップ、おまけにエキストラホイップで仕上げだァ!なあ!福チャァン!!」


「「「ご、ゴディバフラペチーノ…」」」



(真波にLINEしました)


20141203
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