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初めは似てるなって、それだけだった。顔だけじゃなくて声まで似てるなんてって。でも、本当それくらいにしか思っていなかった。あの日もう一回彼に会うまでは。

「あれ、君」
「あ、」

休日一人で街を歩いていたら、見知った顔が声をかけてきた。見知ったといっても知ったのは、つい最近の一週間前。私がマネージャーをしているサッカーチームの試合で。相手チームの選手の顔なんかほとんど覚えていないのだけれど、彼にはとても特徴があったから覚えていた。名前も。

李 潤慶くん。

東京選抜の郭くんの、従兄弟。郭くんは、私がひっそりと想いを寄せている人だったりする。だから従兄弟の李くんは、郭くんによく似た雰囲気を持っていてどきどきした。

「ヨンサのチームのマネージャーだよね」
「こ、こんにちは」

距離をつめられて、遠慮がちながらまじまじと彼を見てみると、改めて似てるなって思った。郭くんより少し背、高いんだなあ。髪型も郭くんとは違って、なんていうかちょっとラフ?カジュアル?な感じ。好きな人の顔を思い出して少し恥ずかしくなった。

「今日練習ないの?」
「う、うん、というか何で日本に?」

会ったのは一週間前に韓国で。ここにはいるはずのない人物に驚いた。チームの誰かと休日偶然会うことはあるけれど、彼は普段韓国にいるはず。そんなに日本と遠くないとは言ってもやっぱり驚いた。一人かな?郭くんと一緒にいるわけでもなさそうだった。

「んー、ちょっとヨンサに会いに」

あ、やっぱり今から行くんだ。にっと笑う笑顔があまり郭くんにはない表情だと思って、少しおかしかった。だって郭くんの満面の笑みなんて、そう見られるものじゃないから。若菜くんや真田くんといるときでも大口を開けて笑っているイメージのない郭くん。いつも控えめに、優しくクールに笑っているから。

「なまえ、だったよね、君の名前」
「わあ、よく覚えてるね」

私マネージャーなのに、そう言おうとした。でも彼が私の言葉を遮った。ぱしんと私の右手をつかみながら。

「好きになっちゃったから」
「え、」

また屈託のない笑顔で笑う。郭くんに似た顔で。掴まれた手は少しだけ痛い。簡単に私の手首を一周していて、ごつごつとした感触が、細いけれど男の人だって思わせる。

「あは、言っちゃった」
「あの、李くん」
「ユンでいいよ、なまえ」

私の名前を呼ぶその声は、私の好きな人とすごく似ていた。私のことをみょうじさんと呼ぶ郭くんが、下の名前で呼んでくれた気がして、どきっとしてしまった自分がいた。目を瞑ってしまえば、目の前にいるのはもしかして郭くんなのではないかと錯覚してしまうくらいに。だけど、違う。

「忘れられなくて、君のこと。ヨンサに会えば、君にも会えると思ったんだけど。まさか偶然会うなんて、すごいよね。こういうの、ウンメイテキって日本語では言うんだっけ?」

なんだかその言葉遣いが白々しく聞こえた気がした。なんて歯の浮いたセリフを言うんだろう。十分上手な日本語を話す李くん。郭くんのようで、郭くんじゃない。私は何がなんだか理解するのに頭がついていかなくて、言葉を返せずにいた。李くんの表情は笑みを浮かべたまま。目は真剣だと思った、人の気持ちに敏感とか、そういう方でもないけれど、じっとそらさずに私の顔を見てくるものだから恥ずかしくなって目を背けてしまった。


「あの…」
「いきなり好きになって、なんか言わないよ。だけどこれから覚悟してネ。…君がヨンサを好きでも、関係ないよ」


さっきまでの笑顔とは少し違った、怖いとも言えるような、だけどとても素敵な笑顔で彼は言う。郭くんと彼は、全然違う。


20141129
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