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制服の衣替えが好きだ。というか学ランが好きだ。最近すっかり寒くなって、制服の移行期間に入った。男子の学ランというものは、どうしてこうも惹かれるものだろうかと私は思う。ブレザーもいいと思うけれど学ランって、男っぽくて、学生!という感じだからこそいいと思う。だけど、その学ランを見ることができるのは今年で最後。好きな人の、学ラン姿を。

「ねえねえ流川くんの学ラン一度でいいからパクってきて」

手には温かい、今自販機から落ちてきたばかりのレモンティー。買ってくれたのは他でもない今隣にいるこの方、三井。彼の手の中にも同じもの。何で同じの買うんだよ、まあ奢ってくれたからどうでもいいけれど。

「…は」
「絶対良い匂いするでしょ」
「いやいや気持ち悪いわお前」
「三井くん顎の傷かっこうぃー」
「ははは」
「馬鹿にすんなよ元不良」
「てめ、」

家路は寒い。あと少しで本格的な冬がやってくるのだと思うと気持ちは少し憂鬱だ。冬はあんまり好きじゃない。寒いし、寂しいと感じることが多い。勿論楽しいことはたくさんあるけれど。クリスマスにお正月、あと何回お年玉を貰えるのだろうか。そんなことを真面目に考え出すと自分は随分と大人になったんだなあと思う。それでもまだまだ高校生が何を言っているんだと、大人には笑われるんだろう。

学ランのポケットに左手を入れて、私の少し前を歩く三井。何を今考えているんだろうか、レモンティーが美味しい、とか。それともバスケ、不透明な進路、うん。そういったものが多分妥当。私だって同じだ。卒業してから別にこれを学びたい、とか将来人のためにこういう仕事に就きたい、とか、ない。駄目だと分かっていても、考えても行き着く先が見えない。三井はバスケっていうはっきりしたものを持っている。それがうまくいくかどうかはまた別にして。だけど私には何がある、成績だって普通で、特技などなくて。それを友達や担任に言えばそんなことない、と言う。しかしじゃあ何があるのと聞き返すことは怖くて出来ない。黙られたり、見え透いた嘘を言われるのはごめんだ。そう、言われてしまうことを分かっているような自分も嫌で困ったもの。ねえ三井ちょっと歩くの速いんだけど。私がどんどん鬱になっちゃうじゃない。

「三井」
「ん?」

その背中に歩きながら声をかけると、立ち止まることはなく軽く後ろを向いて答えた。日が落ちて彼の顔ははっきりと見えない。黒い学ランは深夜になれば暗闇と同化してしまいそう。

「歩くの速いよ」
「あー、わり」

私が距離をつめて歩くと、横に並べよって一言。後ろばかり歩いていたからだろうか、三井はちゃんとそういうところを見ていた。見えていないようなくせに。嫌な男だなあとつくづく思う。

「お前も一応女だしな」
「みっちゃんうざーい」
「みっちゃん言うな」

はは…とそこで笑いは消えるように途絶えた、二人とも。疲れているせいだ、きっと。こんな風に馬鹿みたいなことを言い合えるのはあとどれくらいだろうか。三井とは絶対同じ進路に進まないことは分かっている。三井もそれくらい分かっているのだと思う。というか、三井は私と卒業後の関係とかを考えたことはあるのだろうか。私は、いつも考えるよ、いつもいつも。

「飲み終わった」

空になったレモンティーの缶をぐい、と押しつけるとへいへい、と受け取ってくれた。そして少し先にあったゴミ箱へと小走りで向かう。また私と三井には距離ができた。何もその距離は意味を成さないのに、妙に胸が痛かった。ねえ、速いってば。

「ほら、走れー」

ちょいちょいと手招きして私の方を見る三井。きちんと止まって、さっきみたいに学ランのポケットに手を入れて。よく見えないけれど、表情は笑っているみたいだった。

「調子乗んな、」

私は小走りで三井の横へと行く。そしてまた二人揃って歩く。今度は私の歩幅に合わせて歩いてくれている様で、そんなことに嬉しさを覚えた。優しい、と思った。ただ単純にそう思った。こういうことを無意識でするのかどうか分からないけれど、嬉しいと同時に苛立ちも覚えた、私にそういうことしないでよ。矛盾していることは知っている。冷たくされる方がもっと辛い、だけど。子供みたいな葛藤が起こる。三井のことを考えるといつもそうだ。いつも、いつもそうなんだ。

「じゃあまた明日」
「おー、じゃあな」


三井の鞄に着いた、手作りと思われるお守りが目についた。見たくない、そんなの。大事そうに、それだけがつけられた鞄。見ないようにしていたけれど、じゃあなって言われて去っていく後ろ姿を見ていたら、それも一緒に目に入ってきた。ダサい、何それ、三井。そんな奴じゃないと思ってたのに。私がもしかして、あんたと両思いなのかなって思ってたこと、知らないでしょ。三井の彼女になれたら、どんなにいいだろうかって。卒業するまでに、何かは変わる?親友から、何か変われる?それってとても怖いよ。

20111105
20141129 加筆修正
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