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第一印象、というか見た目はすごく好みだった。こんな素敵な人がいるんだって、そう思った。話をしてみると、また好みだと思った。優しいのだけれど、どこか素っ気ない。一番好きなのは、時々ものすごく冷たさを感じてしまう、そういうところ。その冷たさが何かはよく分からない。はっきりした理由とかは全くない。だけどすごく彼のことを、「冷たい」と思うのだ。まるで、人間ではないような。じゃあ人形か、そうでもない。もっと他の深いものを彼は秘めている、そんなことを馬鹿馬鹿しいとは自分で思いながらも感じてしまうのだ。そんなこと彼には勿論、誰にも言わないけれど。


「巻島さんの髪、すごく綺麗」

髪に気をつかっているそこら辺の女の子達よりも、何倍も綺麗な巻島さんのそれ。すっと触るとすぐに解けて絹みたいだ、そう思った。しかも相当上等なやつ。悔しいけれどこの髪は絶対私より綺麗だ。何か特別なことでもしているのかと、以前聞いたことがある。別に何もしてないッショ、といつもの声の調子で言われてその会話は終了した。だけど今日改めてそう思ったからもう一度彼に言ってみた。束ねていなくて、優しいカールは触り心地が良い。カラーリングしているというのに、枝毛とかそういうものを見たことがなかった。今日も探してみたけれど見あたらない。本当悔しいなあ、いや、汚いっていうのは嫌だけど、巻島さんの髪は異常なほどに綺麗。絶対何かあると思って、彼の自宅のバスルームをこっそり覗いてみたことがある。…普通のシャンプーにリンス、石鹸。それくらいしか置いていなかった。棚の中とかはさすがに遠慮しておいたけれど、多分そういうものは特別無いのだと思う。

「前もそれ言ってたショ」
「はい、だって本当ですもん」

するする三つ編みをしてみても、赤ちゃんの髪みたいに解けていく。この髪ウィッグにしたら絶対高く売れるよなあとか思った。でも切ってしまうのは勿体ないよね、巻島さんよりも短い自分の髪に触れて、ふと声が漏れた。

「むかつく…」

いつもはポーカーフェイスの巻島さんが、珍しく目をぱちくりさせていた。それはそうだ、いつも巻島さんに対しては敬語だし、私の方が年下で…、どうしよう次の言葉が出てこない。

「髪、が綺麗すぎて」

なんとか一言。馬鹿だ私、何言ってるんだろう。また子供だって思われてしまう、彼に似合うようになろうと頑張っているつもりだったのに。恥ずかしくなって下を向いてしまう。今顔は赤い、絶対に赤い。穴があったら入りたい、そういう意味がよく分かってなんだか嫌だった。残念ながらどこにも穴なんてないのだけれど、というかそれはただの比喩であって。

「ん」

「え、」

困っている私を見かねたのか、優しげな微笑みを見せて渡されたのは髪ゴム。巻島さんの細くて綺麗な指が髪の毛を指している。結んでくれ、て言ってるんですか。他でもなく、その、巻島さんの、髪の毛を、私が。断る理由なんてものは何もなかった。あるとすれば少しの羞恥心だけ。聞こえたのか聞こえなかったのかは分からないけれど、私は恥ずかしいのをごまかすために勿論ですよ先輩、だなんて言ってみた。ふわふわでさらさら、さらさら。きゅっと、少し高めの位置でポニーテールにした。やっぱり似合う。勿論おろしているところも好きだけれど、巻島さんらしくて、この一つに結んだ髪型は特に大好き。私も真似してみたことがあった。そんなことを巻島さんは知らないと思う。コームで梳かす必要もないほどに綺麗な髪のおかげで、我ながら綺麗に出来たと思う。結び終わって出来ましたよ、と言おうとしたら巻島さんがこちらを振り返った。髪と同様にすごく綺麗な瞳と目があってそらすことはできない。いつもそう、巻島さんと目が合うと、そらすことなんかできない。それも理由なんて分からない、冷たさに似たもののせいかもしれない。

「ありがとな」
「…はい」

そしてテーブルの上のコーヒーを一口。時計を一瞬見て、私を見て、散歩にでも行くかと巻島さんは言った。私はそれに、はいと答えた。


20141127
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