short | ナノ

君がどうして女の子にモテないのか、私にはずっと分からなかった。昔からずっと君を見てきた私だから、素敵なところをたくさん知っている。花道が誰かを好きになっても別に不安なんか少しもなかった。女の子に振られたら洋平たちが笑い飛ばしてなまえ、なまえって私の所に来てくれるって分かってたから。花道は私と同じ高校に入学した。年下のくせにでかい態度とあの見た目で花道達はすぐに上級生に目を付けられていた。怪我しちゃ駄目だよって言うと誰に言ってんだー、と豪快に笑って頭をわしわしと撫でてきた。昔は私の方がそうする立場だったのに。背だってずっと前に追い越された。

ある日花道が私に満面の笑みでこう言った。

「なまえ!俺バスケ部に入る!」

何でだろう、とすごく不思議だった。バスケなんてやったこともないはずなのに。というより花道が部活だなんて。大丈夫かなと心配になった。どうして?と聞いたら花道は顔を赤くして実は…、とぽつりぽつりと言葉を紡いでいった。『晴子さん』のことが花道は好きらしい。ちくりと胸が痛んだけれど大丈夫、花道の良いところは私だけにしか分からない、と子供のような独占欲で自分を慰めた。その日はあまりご飯が喉を通らなかった。花道が誰かを好きになるのなんか慣れっこなのに、どうしてだろう、今日はとても嫌な予感がした。花道、花道。

「あ、洋平…」

頭が痛くて学校に遅れて行っていたら洋平に会った。洋平は具合が悪い…から遅刻とかではなさそうだった。サボりかな、と思った。

「こらサボりー?」
「はは、そんなとこ」
「珍しいね、一人?」
「ん、花道が朝練行ってるから…」
「へえ…」

バスケか、そう思うとまた胸が痛くなった。別にバスケ部に入った花道が嫌いなわけじゃなくて、どうして花道がバスケを始めたのか、その理由を知ったから。私の気持ちを知っている洋平はそれを察したのか、申し訳なさそうに言う。

「あ…いや、長続きするかな花道」

わざと明るく言ってくれているのが分かって、それも辛かった。花道は今回はいつもとは違う、ずっと側にいた私だから分かる。それには洋平は勿論大楠達も分かっているみたいだった。だから私に最近みんな会いに来てくれないのかな。花道は変わらない態度でバスケのこと、それと『晴子さん』のことを話してくれる。私の気持ちなんかちっとも知らないで。『晴子さん』は花道の良いところを見てくれている、いいことじゃない、中学の頃より花道が生き生きして見えるのはバスケ部に入ったからと言っても過言ではない。前みたいに会う時間が少なくなっても、楽しそうな花道を見るのは好きだった。

「今週、は?」
「…行かないよ」
「そっか…」

花道に試合見に来いよ、と何度か誘われたけれど一度も行ったことはない。私からどんどん遠いところに行ってしまう花道を見たくない。『晴子さん』を見たくない。きっと可愛くてすごく良い子なんだと思う。今の私はすごく汚い感情しか持っていないから、そんな子を見たらおかしくなりそうだ。今以上に嫌な女の子になりたくない。せめて花道にとって優しい幼なじみのお姉さんでいたい。いつだって花道が私を見る目はそうだったのだから。それはこれからも変わらないことで変えてはいけないこと。私が花道にすきだ、なんて言ったら君は困った顔をするのかな。そんなの、考えたくもないね。

「ねえ洋平、」
「ん…?」
「私さあ、花道のことすきだよ」
「うん」
「馬鹿だし、髪赤くて、すぐ喧嘩売られるけど、」
「うん」
「すごく、すきなんだよ」

最後はぽつり、と小さな声で呟いた。言葉にすると予想以上に辛かった。洋平はうん、とまた一言返してくれた。そしてゆっくり二人で学校へと足を運ぶ。行きたくない、歩けないかもとか思ったけれど足はちゃんと動いた。

学校に着くと丁度休み時間だったみたいで、生徒達が廊下や購買にいて、行きづらさを感じずにすんだ。紛れて教室に行こうと、洋平にじゃあねと手を振る。

「洋平じゃあね、」
「お、なまえに洋平!」

今、一番聞きたくない声がした。あまりに聞き慣れすぎているその声に、体が意思とは関係なく反応する。聞きたくないのに、すきだなんて。

「大丈夫か?洋平はサボりだろーけどなまえ風邪でもひいた…」
「…大丈夫だよ、ありがと」

精一杯、いつもみたいに笑ってみせた。頑張っている花道に心配事なんか必要ないもの。すると花道は無理するなよ、と頭をぽんと撫でてくれた。そういうことされるの、今の私にはキツいよ。

「あ、そうだ今週の試合…」

無邪気にそう言う花道、そして洋平がチラリとこちらを見る。心配そうな顔で。洋平までそんな顔しないでよ。


「…行こうかな、花道が頑張ってるところ見たいし」

声は震えなかった。

「おっしゃあ!俺ますますやる気出た!約束な!」

またそういうことを言う。私にとってはキツいだけだから止めてほしいのに。だけどやっぱり嬉しいと感じてしまう自分もいるのだから笑えてしまう。

「よし!じゃーまたな!」

にかっと笑って下手なスキップで去っていく花道。なんにも私の気持ち知らないんだな、本当に。いいのか悪いのか。でも多分、知らなくていいんだと思う。

「ねえ洋平、私、ちゃんと笑えてた、かな」
「…!」

今になって声が震える。涙も溢れそう、目に溜まってきた。

「試合行って、はるこさん見て、ちゃんと諦める、花道のこと。応援する。だって、すき、だから」
しゃくりあげて声は途切れ途切れだ。我ながら情けないけれど、うまく喋ろうとするほど呂律も回らなくなる。あーあ、これは失恋だよ。人生初。花道をあそこまで本気にさせた『晴子さん』、かあ。私をここまで本気にさせたのは花道なんだけどなあ…。

「私、はるこさんのことすきに、なれるかな、意地悪言ったり、しないかな」

「…なまえは優しいな」

同情、とかそういう笑顔ではなくて、いつもの優しい笑顔。そして洋平は花道みたいに頭を撫でてくれた。いや、花道みたいに、ではない。花道は洋平みたいにふわりとは撫でない。もっとわしわしと、荒っぽい。だけどそんなところさえも、すきだった。…うん、すき「だった」。

「屋上行く?ジュースくらいなら奢るからさ」
「ねえ、私洋平をすきになればよかったなあ…」
「…馬鹿、」

空はむかつくほどに青くて、洋平のくれたオレンジジュースが甘酸っぱくて、また涙が出た。

20111009
20141126 加筆修正
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