short | ナノ

俺も人並みに恋をした。いつからかキャラが定着してしまい、人を好きになることに引け目を感じてしまっていた俺が、恋をした。叶うのならこんなに幸せなことはないけれど、こんな俺だ。特に行動を起こそうとか、誰かに相談しようとかそういった考えは浮かばなかった。同じクラスで話したことが実はわりとあったりして、それが唯一俺の幸せだった。見ているだけでよかったんだ。誰にでも分け隔て無く優しい彼女に、俺は惚れてしまっていた。

その子はある日友達と一緒に体育館に現れた。俺を見かけると高宮くんだ、と軽く手を振ってくれて嬉しかった。大楠や野間がなんだなんだ?とにやついてきたけれどクラスメイトだよ、静かにしてろと彼女に迷惑をかけないために言った。この時の俺はすごくイケメンだった、そう思いたい。一緒の場にいることを喜んだのもつかの間、よくよく考えれば何故此所へ?…バスケ部。バスケ部の練習を見に来たんだ。その他に理由があるはずもなかった。百歩譲って友達の付き添い、だろうか。好きな男がバスケ部の中にいるのだと考えると俺は少し胸が痛んだ。見ているだけでよかったと思っていたのに、いや思っているのだけれど。

「ほらほら、あそこ」
「あっ…本当だ」

彼女の友達も彼女と同じくわりと大人しめの子が多く静かに練習を見ていた。流川親衛隊、というわけではなさそうだった。今日は流川は補習とかで、確かまだ教室にいたのをさっき見かけたから。じゃあ誰を見ているのだろうと俺は花道を見るふりをしてこっそり彼女の方に視線を向けた。大楠達にばれないように。友達の付き添いというよりもむしろ、彼女が友達に付き添ってもらって此所に来ているようだった。時折頬を赤く染めて熱い視線を向けているということぐらい、恋愛に疎い俺でも分かった。見たくない、だけど…そう思ったけれどその視線の先をたどる。…誰だ、名前も知らない二年生がシュート練習をしているだけ。あの中にいるのかとじっと見つめる。年上か、そう思った次の瞬間花道がドカドカと足を踏みならしリングへと突っ込んできた。ちょっとどけ花道見えねえだろうが…!

「桜木くん」

え、かすかにだけど確かに聞こえたその言葉。それは他でもない彼女から発せられた言葉だった。さくらぎくん、と。俺の耳がはっきりと聞いた。他の奴らは花道馬鹿だなーとか、そんなことを言っていて何も聞こえていないようだった。でも俺には確かに、聞こえた。彼女が花道の名を愛しそうに呼ぶのが。ちょっと怖いんだけど、凄く優しくて…、昨日すれ違って…、ぽつぽつと聞こえてくる話し声。盗み聞きをしているつもりはないのに自然と耳が聞こうとしていた。嫌なのに。まさか花道のことを好きだったとは思いもしなかった。流川とか、ミッチーだったなら諦めがつきやすかったのか。いや、初めから成就させようなどというスタンスではなかったのだけれど。親友だと知ると妙に胸が痛くて痛くて仕方がなかった。そう思うと同時に花道は晴子ちゃんのことが好きでよかったと安心した。でももし晴子ちゃんがいなかったら?花道はどうしていたんだろうか。それから俺は練習など見る気にもならないで、ふらりと外へ出た。


「あれ、高宮どうしたんだ?」
「ちょっと俺帰るわ」
「はあー?」

後ろから聞こえてくる声を適当に受け流し、体育館を出る。そっかー、花道なんだ…はあと深いため息が出る。それを知ったとたん普段感じていたあの些細な幸せが全て消えていくようにさえ感じた。そんなことないはずであるのに。

「…くん、高宮くん」
「帰るって言ったじゃ…」

まだ後ろから俺を呼ぶ名前がするから苛ついて振り返りながら言った。するとそこにはいるはずのない人、みょうじさんがいた。さっきまで体育館にいて、花道に熱い視線を送っていた、みょうじさんが。どうしてここに、

「あ、ごめんなさい…」

俺の声色に驚いたのかしゅんとした表情で謝る。申し分けなさすぎて、ごめんそうじゃなくてと俺も慌てて謝った。そんな、みょうじさんにそんなこと言うわけないって。そう言うと俺の好きな笑顔で笑ってくれた。特別可愛いわけでもない、こういうと失礼に聞こえるかも知れないけれど、そんな素朴で純粋な、どこか晴子ちゃんにも似た雰囲気を持っているみょうじさん。ああ、やっぱり俺はこの人が好きだと思ってしまう。


「やっぱり高宮くんておもしろいや。こっちこそいきなりごめんね。」

「い、いや…で、何か様、ですか?」

テンパって変な敬語になってしまった、だけどそんなこと気にせずにこにこしてくれているみょうじさんが眩しすぎる。俺も青春してるんだな、なんて。そんなことあいつらには絶対言えやしない、いやでも結構真面目に聞いてくれたりすんのかな…

「これ、この間謹慎になってたでしょ。その時のノート、渡そうと思ってたんだけどタイミング逃しちゃって。字汚くて申し訳ないんだけど…ほ、ほら隣の席だし、私こういうの好きだから…」

すっと差し出されたピンク色のノート。好き、好き、好き…俺のことではないのに、妙にそのいわれた言葉に恥ずかしくて顔が熱くなってきた。っていうか良い子すぎるだろ…、言い訳みたいなのにも俺のハートは打ち抜かれて。さっきみょうじさんの気持ちを知ってしまったというのにそんなことなかったみたいに前向きになれて、人間、というか俺って単純だ。

「じゃ、また明日ね」
「お、おう…」
「ばいばい高宮くん」
「えと…、っみょうじさん!」

ん?とまた可愛らしく首をひねって俺の方を見る、うわ、ちょっと待てそれはやばいって。さっきよりもずっと顔が熱くて熱くて。こんなに鼓動って速いのか。俺、恋してるのか。

「ありがとう」
「…どういたしまして」

にこりと微笑を浮かべたかと思えばまた体育館の方に走っていく。俺はその背中を見ていた。そして受け取ったピンク色のノートをぎゅっと握った。“高宮くんへ”と書かれた付箋が貼られていて俺のためにしてくれたのだと思うとまた嬉しくて、恥ずかしくてその場に座り込んだ。可能性ってやつは低くても、最初から諦めるのはやめだ、そう思った。俺は諦めの悪い男、高宮だ。(ごめんミッチー)


20111106
20141126 加筆修正
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テーマ「人外ファンタジー」
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