short | ナノ

「藤真見ーつけた」

昼休み、自販機で何を買おうか100円玉を片手に悩んでいた。苺オレでも買って花形の反応見るか、いやいやクールに無糖コーヒー…。そんなときいきなり名前を呼ばれたから、思わず手に持っていた100円玉を落とした。コロコロコロ…そんな軽快な音をたてているのかどうかは知らないが、倒れることなしにそのまま自販機の奥へ。数秒後、チャリンと音がした。…最悪。

「次藤真が鬼だから」

お前、俺と今日最初の会話(?)がそれかよ。おいコラてめえ。100円を落としてしまった原因でもあるこの女はヘラヘラ笑って俺を指差す。おいおいおい今の見てなかったのか。だいたい俺はいつからお前と隠れんぼしてる設定なんだ。

「おい、みょうじ」
「何、見つかるようなとこにいる藤真が悪いよ。男らしく負けを認め…」
「待て俺は隠れてねえ」
「…はん」
「何で鼻で笑った?」

屈んで自販機の下をのぞき込む。暗くてよく見えない、けど確かにここに転がっていったわけで、俺の100円は。生憎持ち合わせはそれしかなかったから何としてでも取らねばならない。隙間は思った以上に狭く手首までしか入らなかった。そんな俺を見ながら横でみょうじが自販機に金を入れて何かを買っていた。ゴトン、

「うわ…藤真お金落ちてないか探してんの?切なー…、だっさー…。ファンの女子が見たら何て言うかね。あ、お釣り落ちてくるところはもう見た?しかし残念これは私のお釣りです」

「何ごちゃごちゃ言ってんだうぜえ。俺は自分が落とした100円探してんだよ」
「うわどんまい」

元はといえばお前のせいだ、と言っても通じないだろうからあえて言わないことにした。100円くらいで小せえ奴だと言われるのもむかつく。あーくっそまじ届かねえし。

「じゃあ藤真1000秒数えてね」
「何だその無駄な長さ」
「あはは冗談冗談」

笑いながら缶を開ける。こいつが飲んでいるのは無糖コーヒーだった。俺がさっきクールぶるために買おうか迷った代物。何こいつ、こんなの飲むわけ。コーヒーが別に飲めないわけではないけれど何故かなんとなく悔しかった。

「…何見てんの」
「お前それ好きなの?」
「コーヒー?いや、缶コーヒーって嫌いだよ。なんか缶の味するから。でもブラックはわりといけますいけます」

変な奴だと思った。でも缶の味がする、というのは意外と頷けるものがあった。


「ところで藤真」
「なんだよ」
「よいしょっ」

みょうじは屈んでさっき俺がしたように自販機の下をのぞき込んだ。おい飲み物を床に置くなきたねえ。しょうがないから俺が持ってやることにした。みょうじはなんの躊躇いもなく腕を自販機の下へと伸ばす。…うおっ、とか言いながら。どっからその声が出るんだ。

「あった!」

軽く制服をはたいて俺に握ったその手を差し出す。その腕はまだ少し埃で汚れていた。それでもニコリとしていたみょうじの笑顔に驚いた。もっとそういうことって、女子は気にするのかと思ったから。嫌な気は全くしなかった。

「…さんきゅ」
「いーよいーよ。あ、コーヒー返して。それと1000秒ね、一志がまだ一度も見つかってないから気合い入れて探してよね!」

だからどうして俺は隠れんぼに参加してることになってるのか、と。ん、待て一志がいるということは何だ、花形も参加してんのか?あーめんどくせ!1000秒って大体なんだ知らん。俺は10秒で行かせてもらう…何これ、参加する気になってるじゃん俺。まあいっかとおかしくなって笑った。そしてあいつが拾ってくれた100円玉の入っている左手をそっと開いた。

「…っざけんなよオイ」

俺が落としたのは10円じゃねえ。

20110925
20141126 加筆修正
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -