short | ナノ

「甘いもの食べたい」

それは私の些細な一言から。もう今ではすっかり聞きなれた洋楽の流れる楓の部屋で、ぽつりと言った。好きな人と嗜好が似てくるというのはよく聞く話だけど、私には当てはまらないようだ。洋楽は好きなんだけど楓とは少しジャンルが違うみたい。と、いうのは今はわりとどうでもよくて。

「何もねえぞ」
「あ、聞こえてたの」

部屋狭いし、と一言。まあそういえばそうなんだけど。それにお前の声でかいし、だって。ね、それ今追加しなくちゃいけなかった?こっちを見ているかと思えば彼の視線はガタイのいい男ー、つまりはバスケ雑誌へと落ちている。今日は久しぶりに楓と会うからと新しいワンピースを着てきたのに。別に彼から感想をもらえるとは全く思ってないんだけど。

「買いに行くか?」
「え、」
「甘えの」

今度はちゃんとこっちを見ていた。ふいに目を見てくるものだからドキンとした。うわ…やっぱり楓って、かっこいいわ。






出かける、とは言っても近所のコンビニ程度。今日はずっとお家デートだと思っていたからたとえコンビニでも嬉しかった。夏が終わり、少し肌寒い風が吹く。隣を歩く楓の手を握ろうか。幸いポケットに手は入れられていない。その細くて長い、だけどがっしりとした指を見て妙に緊張した。う、わ。いつも繋いでいるけれど、改まって見ると恥ずかしい。

「手」
「ん?」
「ちょっとさみー」
「うん寒い」

何を言うかと思えば寒い、だなんて。可愛いなー、じゃなくて。これってチャンスじゃないかな。手繋ごうって、言え私!いけない、またドキドキしてきた。

「じゃなくて」
「え、何?」

私の相槌がいけなかったのか何かは知らないけれど、下唇をきゅっと噛んで少し険しい顔。あ、その顔、好きだ。なんてふと思った。

「…どあほう」

ぱしり、右手を強く掴まれた。え、あの、ちょ。

「…」
「お、おう」
「何がおうだアホ女」
「な、誰が…っ!?」

ぎゅう、少し痛いかもって思うほどに強く握られた手。さっきまでは冷たかったのにそれは段々と熱を持つ。自然と笑みがこぼれた。楓の顔はどうだろうと盗み見たけどいつもと変わらない表情。あ、そーですか。そんなところも好きなんだけどさ。

「んふふ」

キモいって言われました。







「何にしよっかなー…」

定番、期間限定、色々ある中から本日いただくスイーツを選抜する。うおー、迷うなあ。一人で来てもわりと楽しいコンビニ、だけど楓と来ると何倍も楽しい場所に感じるから不思議だ。…ということを本人に言ったらどあほうと一言だけ返ってきた。どういう意味のどあほうだ、このどあほう。まあ結局私は彼とならきっとどこでも楽しいんだと思う。こういうことを桜木君に言ったらどんな反応をするんだろうか、きっとおもしろいに違いない。想像すると笑えた。

「決めたか」
「んー、まだ」
「…」

すっと差し出されたのはオーソドックスな生クリームロールだった。この前テレビでも紹介されていた一番人気、っていう。確かにそれは美味しい。

「これにするの?」
「おー」

似合わねえ…とか思ったことを口にはせず自分のスイーツ選びに集中する。数分迷った結果期間限定の甘栗プリントやらにしてみた。うーんこれは絶対美味いぞ。お会計はポケットから500円玉を取り出して俺が払う、と楓が。これがポケットマネーっすか、と聞くとシカトされた。うそん、それはないよ楓さん。誕生日には私が小銭入れくらいなら買ってあげようかな…キツネ、とかの。帰り道はどちらからともなく手を繋いだ。そんなことが嬉しくてまた思わずニヤけてしまった。



「いただきまーす」

先ほどのマイスイーツを楓ルームに帰るなり頂く。私の選んだプリンは期待を裏切らず絶品だった。これ絶対もう一回買おう。そんな私の向かいで黙々とロールケーキを頬張る楓。スプーン貰ったのに手で食べるんだ、いや、いいんだけどね。生クリームと、楓…。ガタイのいい楓と可愛らしい生クリームが何とも言えず思わず写メった。

ーカシャ

「…何してんだ」
「写メしてんだ」
「ヤメロ」
「うし、待ち受けにしたよ」
「…」

うわ、私の待ち受けシュールすぎない?でもこれ、絶対消せないわ。冷え切った目で私を見る楓。おー、怖い。それ以上何も言わず最後の一口をぱくり。あ、

「一口くれるとか期待したんですが」
「そーですか」

口の周りについたクリームをぺろりと舐めてゴミを捨てる楓。何今の、エロい、とか言うとまた氷点下の視線を送られるから言いません。ちらりと頭の中で、じゃあキスしてやるよっていう妄想が浮かんだ。少女漫画ではお約束ー、な展開でしょ。わ、ロールケーキ味がする、とか言うアレ。ドキドキしながら待ってたけど、そんなことは楓に期待するものではなかった。帰り道ロールケーキと甘栗プリンをまた買おう。


20110925
20141126
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