short | ナノ

まるで映画みたいな台詞を言うんだな、そう思った。俺が好きだと伝えて、恥ずかしいとか、嬉しいとかそんなことは思ってくれなかったのだろうか。彼女の気持ちが読めなかった。


「私が女の子じゃなくても好き?」


そんな台詞をぶつけられたのは人生で初めてだった。この言葉に似たものを最近見た古い映画の中で、主人公の少女が口にしていた。何、君も見たの?と思わず聞きそうになった。自分に酔っているとか、映画好きとか、文学少女だとか、そんなわけではない君なのに。女の子じゃなくても、つまりは何、君が男でも、ってこと?それとも君は永遠に若い少女で(不老不死の魔女、なんて)実質500歳のおばあさん、ってこと?どっちにしろ突拍子もない話だ。関係ないよ、と俺は映画の登場人物と同じような台詞で返した。影響されたとかそんなつもりは全くないけれど、本当にそう思ったから口にした。彼女の表情は何にも興味がないみたいな、というかいつもと何ら変わらない。ビー玉みたいに透き通った目で俺をじっと見ている。俺は人をじっと見ることが苦手だから、それには思わず視線をずらした。

「……好きだよ」
「そういうの、苦手」

間髪入れず彼女はいつもと変わらない口調で答えた。え、俺は間抜けな声が出て彼女の目を見る。今度はしっかりと、そらさないで、見つめた。さっきと何ら変わらないその目が少し怖かった。自分より背も低く小さな彼女に怖さを覚えた。その感覚を怖さと言っていいのか分からない、でも同時に綺麗だなんて、呑気に思えた。立ち振る舞いが、目が、空気が綺麗だなと、思ったんだ。それを口にしたら君はどんな顔をするの。見たいよ、でも結果は多分分かってる。告白する前から全部分かってるような気がした。負け惜しみとかそういうマイナスなことではなくて、それはむしろプラスな感情。彼女は自分の気持ちをありのままに言ってくれるんだろうなと、そう思っていたから。

「みょうじさん、」
「……郭くん」
「………」

有無を言わさない何かがあった。…そんなもの本当は何にもないのに。彼女は特別何かを口にしたわけではないのに。そう、俺の名前だけ。ただ、名前だけ。それなのにどうして俺はこんなにも臆病になっているんだろう。またさっきの目が俺をじっととらえている。俺の言葉を制したということは、君が今から何かを言うから?それとも単に黙らせたかったの。分からない、俺には君の気持ちが分からない。でも全て口にしていることは本心だと思った。根拠はない。かっこ悪いけど、涙がこぼれそうだった。この理由も、分からない。


20120301
20141126 加筆修正
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