short | ナノ

「なんでそうなるの」

そう言った俺の言葉は聞こえたんだろうか。冷たい風を身に受けて、顔を赤くした彼女は下を向いたまま。寒そうに縮められた指先がセーターの袖から覗いていて、頬と同様に赤かった。さっきから俺の方をちらりとも見ようとしないその態度に少しばかり苛ついた。でもそんな風に怒っても解決しないんだろ、だからぐっと言いたい言葉を飲み込んだ。それでも彼女にとっては随分痛かったようで。瞳は微かに潤んでいるように見えた。それには気付かないふりをした、いいだろ、これくらい。君もずるいことしてる。

「…なまえ、聞いてる?」

自分がどんな口調かなんてよく分からなかった。穏やかに言ったつもりはなかったけれど、別に不機嫌さを表してもなかったと思う。いつまでも返事をしないなまえに俺から言葉をぶつけた。目は合わせないけれどこちらに体を向けて、どこを見てるの。俺より頭二つ分は低い彼女のつむじが見えた。

「聞いてない」
「…はあ」

明らかに不機嫌なその声色に思わずため息が出た。口はぐっと噛みしめて、手もきゅっと握りしめて。

「…こっち向いてよ」
「…」
「なまえ」

くるっと向きを変えてまたそっぽを向く。今度は背中しか見えないじゃん。肩に触れようとしたけど、…止めた。泣き出してしまうような気がしたから。理由は分からない。そんなことを言えばまた泣かせてしまうかもしれない。じゃあ結局何が最善なのか。

「そ、」

震えた声が聞こえた、相づちは打たないでそのまま黙って聞く。ぴゅうぴゅうと冷たい風のせいであんまり聞こえないから一歩その震える背中に近づいた。

「宋ちゃんが、」
「…」
「好きとか、言うから」
「…駄目なの?」
「なにが…」
「そう言ったら」
「駄目とかじゃなくて…」
「じゃあ何」

またきゅっと唇を噛む。赤くなるよ、そんなに噛んだら。だけどそれは今言うことじゃなくて。俺のことをきっとそういった対象として見ていなかったから戸惑うの?じゃあ今から見てよ、俺のことそんな風に、男って。見てよ。俺は問いを一番初めに戻して言葉をかけた。

「好きって俺が言ったから、距離を置きたいの?なまえと俺はもう、幼なじみじゃないとでも言いたいならそれでいいから。…何か、返事を頂戴」

「だから…」
「さっきみたいなのはいらない」
「宋、ちゃん…」
「宋ちゃんとか、呼ばないで」

そう言って彼女の顔をふと見ると涙が頬を静かに流れていた。寒い風のなか流れているその雫は熱いんだろうなと思った。拭ってあげよう、"幼なじみの宋ちゃん"ならそう思ったかもしれない。でも今の俺は、そんなことできない。したくない。

「また、明日」

恨めしそうな目でなまえが俺の背中を睨んでいるような気がした。


20120228
20141126 加筆修正
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