2015-8-4 Tue 21:52
「可愛くて、甘い匂いがして、気が利いて何でもウンウンって言う。女の子はそんな風にいればいいって思ってる君の意識が俺は嫌だよ」

彼はとても冷たい目をしていた。視線に温度があるだなんて、信じられなかったけれど、彼のこの表情はきっと誰が見ても「つめたい」とそう思うに違いない。

「そんな…違うもん。自分が男で、女の子の本質見抜いてる、みたいな言い方やめてよ。男の人ってどうしてそんなこと言うの。イルミもそんな人だったなんて、わたし、」
「ほらそうやってすぐ男だとか女だとかにこだわって、自分の考え押し付けてるじゃない。心の中はいつも劣等感でいっぱいでさ、可哀想な子」

わたしのことを捲し立てるみたいなその口調はけして意地悪ではない。だけど彼の底意地の悪さはわたしが誰より知っているつもり。不快感を与えないようで、その実とても、とても心にずしりと残る、そう、まるでえぐるような言葉を投げかけるのだ。わたしにだけじゃない。彼は弟にだって、友達にだってそう。無意識のうちにそうしているのだから怖いのだ。反論をこんな風にしてみても、すぐに打ちのめされてしまう。泣いたらもっと駄目だってこと、分かっているのに目がじんじんしてくる。

「わたし、イルミに何も迷惑かけてないじゃん、ただ、クッキー食べてほしいって、それだけ…っ」

彼と、彼の弟に食べてほしくて作ってきたクッキー。特別美味しいだなんて思っていない、これをあげることで彼らに何かを求めている、なんてこともない。ただ純粋に食べてほしいと、そう思っただけなのに。どうしてこんなことを言われなくちゃいけないの。

「前は、食べてくれたのに…」

幼かった日のことを思い出して、堪えていたものが溢れだしそうになる。じわりと滲んだものに気づかないふりをしたけれど、止めることはできなかった。そんなわたしを見つめる彼の目は、やっぱり「つめたい」ものだった。床に落ちたクッキーは、彼の足の下。泣いてもこの人はその手でそっとわたしを撫でてくれやしない。それなのに「もし泣けば…」なんて期待していたわたしがいて、なんだかもう何もかもが嫌になって吐き気がした。味見したクッキーは、とても美味しかったなんてことを今、思い出した。

「何してるの、さっさと歩きなよ。キルが待ってる」

これだけ冷たい態度をとっておきながら、ここでわたしのことを追い返さないイルミの態度に、淡い意味のない期待を抱いてしまうのだ。
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