中編小説 | ナノ



硝子の夜の鎮魂歌 A
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肌寒さを感じるのは、まだ生成のシャツ一枚では寒い季節である証拠。
いつもはエメラルドの海も今日はどこか濁っている。


潮風に流されることなく届く歌声は砂浜の方から聞こえてくる。
初めて聴く歌だった。賛美歌のように綺麗な和音の歌は、彼女の歌声にのって響きを増す。



やや歩いたところで、波を足元に遊ばせる女が大海原に向かって佇んでいた。



『・・・何の歌?』



男に気付き、女は歌うのをやめ長い髪を揺らし振り向いた。あの日の海の色を写した瞳が揺れる。



「バイオレット!」


『・・・やっぱり君・・・』


「よかった、また会えた!」



笑いながら駆け寄るユーリア。
薄手のワンピースをひらひらと靡かせている。
雨も降っていたというのに寒くないのだろうか。戸惑いわずかに後ずさる男にユーリアが正面から抱きついた。



『・・・っくるし・・・っ』











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