中編小説 | ナノ



硝子の夜の鎮魂歌 A
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ふと、外の音に耳をすます。
微かに、それでもはっきりと誰かの歌声が聞こえた。



『あの声・・・』



男はやや迷ったが、声がする方へ出向くことにした。雨に濡れることなど、日に当たることに比べたらどうということはない。
トレードマークと化している重苦しいコートも羽織らず扉を開ける。



『・・・ずっと雨ならいいのに』



次第に弱まる雨、少しずつ薄くなる雲。


彼女と話がしたいわけでもなければ、特段会いたいわけでもなかった。
ただ歌声に誘われるように、アンダンテの歌に歩調を合わせた。










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