硝子の夜の鎮魂歌 A
2/10
ふと、外の音に耳をすます。
微かに、それでもはっきりと誰かの歌声が聞こえた。
『あの声・・・』
男はやや迷ったが、声がする方へ出向くことにした。雨に濡れることなど、日に当たることに比べたらどうということはない。
トレードマークと化している重苦しいコートも羽織らず扉を開ける。
『・・・ずっと雨ならいいのに』
次第に弱まる雨、少しずつ薄くなる雲。
彼女と話がしたいわけでもなければ、特段会いたいわけでもなかった。
ただ歌声に誘われるように、アンダンテの歌に歩調を合わせた。
≪|
≫