中編小説 | ナノ



最後の恋 A
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***





だん!と大きな音が小さなバラックに響く。男が己の拳をキャンパスに叩きつける音だった。そのままずるずると床にへたりこむ。


『・・・なァに、描かないの?』

『・・・』


キャンパスの向こうの女は肢体をしならせ妖艶な笑みを浮かべ、床に膝を付き荒く息をする男を見ている。


『じゃあこっちきてよ、グレッグ』

『・・・気分じゃない』

『いいじゃない、嫌な事は私が全部忘れさせてあげる』

『帰ってよ』


『・・・ッ、何よ・・・っ!』


女の言葉を遮るように男が言い放つ。女は何か言いたげにしていたが、男の放つ雰囲気に何も言えずドレスをひっつかみドタドタと出ていく。
何度目だろう。同じことを繰り返すのは。こうやって言い寄ってくるオンナを家に連れ込んで、絵のモデルにして・・・。この前の子は『一体誰を描いてるの?』と怒って出ていった。・・・男は目を閉じ深呼吸をする。
やはりオンナをモデルにするのは苦手だ。描いているのはこっちだと言うのに、キャンパスの向こうから色目を使って見つめてくるオンナは特に。

床に転がる画材を拾おうとして、ふと左の手のひらを見る。粉々に砕けた木炭。・・・最後の一本だったのに。


『・・・はぁ、もう』


出来るだけ外には出たくはない。しかし木炭がなければ絵を描くこともできない。
男はフードを目深にかぶり外へ出た。日差しが石畳に反射して目に刺さる。








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