中編小説 | ナノ



最後の恋 A
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あの夜の一瞬の激情。あの時こそ、自分が人間らしくいられた最後の瞬間だったのではないかと男は思う。そびえ立つ崖の上、見下ろせば岩に打ち付けられて白い波が立っている。


『・・・・・・・・・』



強風に煽られる黒いフードを手に押さえると、風が男を誘うように背中を押す。
もう何年同じ事を繰り返しているだろう・・・ここから飛ぶ勇気もない自分が心底嫌いだ。唇を噛み切りたくなるような嫌悪感。
男は自身の胸元を抑えながら傍らの岩に背中を預けた。


『はあ・・・っ』



あの夜のことを思い出すと未だに蘇る息苦しさ。妙に頭だけは冴えていて、身体の変調もお構い無しに意識だけがあの夜に戻っていく。
中途半端に与えられた罰は死よりも重く自身にのしかかる。忘れてはならないのだ・・・あの日犯した大罪を、自らの目の前で幕を閉じた命の存在を。



『ユーリア・・・』



なおも吹き付ける白刃の風の中、愛しい女の名前を呼んだ。きっと彼女は自分のことなどとうに忘れて、新しい生活を手に入れているはずだ。あの日の別れは彼女の為でもあり・・・そして自分への戒めでもあった。犯した罪に対し軽すぎた罰、その帳尻を合わせるかのように。









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