フラッシュバック
対峙するキャンパスは真っ白。
あてもなく感覚で筆をとり
ボクの色で染め上げていく。

暑いし邪魔だから
カレッジコートを
近くの椅子に脱ぎ捨てて。

キャンパスの向こう側には、君。
じっとボクの顔を見つめてるけど
そんなにボクを見たって
さして面白くもないだろうに。


「・・・」

『・・・』


互いに無言が心地いい。
あんまり喋られても気が散るし
それを分かってくれてる
君は敏い子だと思う。


ふと君が立ち上がり、廊下に出る。
ボクは気にせず筆を走らせ続ける。


『バイオレット先輩は?』

「手が離せないの。どーしたの?」


チェスロックとマリアが話す声が聞こえる。
やっぱり気が利く子。だから好き。


『レドモンド先輩が呼んでんだよ』


え、今?
タイミング悪いなあ・・・


『しまったな・・・俺も今ちょい手ェ離せねぇし』

「じゃあ私が行ってくる」

『わーりィ』


ボクに声をかけることなく
そのままの足で階下に駆け下りる君。




その足音にふと、
「あの日」の光景が蘇る。


______________…………


「レドモンド先輩に頼まれた資料があって」

そう言って赤寮に行った
君がなかなか戻らない。
もう消灯前だし、心配になって
門扉を閉めようとする守衛に一言掛けて。

それでも戻らないから傘を持って
門扉まで降りて待ってみる。


やっと戻ってきた君は傘もささずに
肩で息をしていて
泣いてることにすぐ気がついた。


「先輩!!バイオレット先輩!!」


ボクの名前を呼びながら飛び込んできた君

雨で分かりにくかったけれど
なんだか匂いが違う。
それに・・・鎖骨に赤い傷。

あぁ、何かあったんだなって
その「何か」も大体当たりがついた。


キスしてみても・・・何か違う。
香りが?感触が?・・・気持ちが?


「バイオレット先輩・・・・・!!」


バスルームから聞こえる
ボクの名を叫ぶ君の声・・・

____________________





『・・・・・・・・・・・・・・・っ!!』



ガシャンと派手な音を立て
立ておいたスタンドが崩れ落ち
左手で払いのけられたキャンパスが
筆と一緒に床に転がる。
床一面に油性の絵の具が散らばる。



ひどいイラつきと眩暈。
あの日傷つけられた君の気持ちが
ボクにそのまま突き刺さってくるようで。
忘れようにも、忘れられない。


『はぁ・・・・・・・・・はぁ・・・・・・』




でも君はあの時・・・
ただ「傷ついた」だけじゃなかったよね?




「ど・・・どうしたの!?」




ほん・・・っと
タイミング悪いなぁ・・・!!





『・・・・・・・・・・・・何でもない』



戻ってきた君の横を通り過ぎ
ぐちゃぐちゃになったアトリエを出ていくボクを
君は戸惑い・・・少し怯えた目で見てる



ふと舞い戻ってくる心の闇。
ボクは君といる間ずっと
これと向き合わなきゃいけないわけ・・・?


まっさらなキャンパスの真ん中に滲む
1点のシミを気にするなっていうの?



『バカ言わないでよね』



ボクのささやかな暴言は
人知れず長い廊下に消えていった。










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あとがき


浮気された人間ってずっと
フラッシュバックに悩まされるそうです
「紅い秘事」の続きネタ!


似たような小説をメモにも上げてますが
バイオレット先輩はガチで絵を描く時は
感情をむきだしにしそうだなってゆー
妄想の賜物です!


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bkm





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