『マリア』
白鳥宮でふと、話しかけられる
レドモンド先輩はソファに横たわったまま。
『今日中に持ってきて欲しい資料がある。悪いが俺の部屋に来てくれないか?』
白鳥宮での会話の中で、流れでレドモンドからおつかいを頼まれる。まさか、これが崩壊の始まりであったとも知らずに。
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部屋で資料をまとめ終わり、ほっと一息。と言いたいところだが、レドモンド先輩は今日中と仰ってた。もう消灯の時間が迫っている。急いで持っていかないと。マリアは資料を片手に部屋を出た。
『あ、マリア』
聞き慣れた声にふと振り返る。バイオレットがこんな時間に談話室にいるなんて珍しい。他にも寮生たちがいるから、あんまり深い話はできない。…けど。
「あっ、先輩」
『どこ行くの?』
「レドモンド先輩のとこです。頼まれてた資料があって…それで。」
先輩は画板からふと目線を上げて。普段見られない柔らかい笑顔で。
『雨降ってるし真っ暗だよ。一人で大丈夫?』
イメージないけどやっぱりウェストン校の生徒。バイオレットは紳士だし、これは彼の個性だけどすごく優しい。こんな先輩は私だけの特権かと思うと、浮かれてしまいそうになる。
「大丈夫だよ。すぐ帰ります。」
『…そう。気を付けて行っておいでね』
「うん。ありがとう」
『戻ってきたら僕の部屋においで』
他の寮生たちには聞こえないよう、囁くような声で誘われる。そして、軽いキス。嬉しくて逸る気持ちを抑えながら、レドモンド先輩の元へ急いで。レドモンド先輩もきっと待ってるはすだ。
赤寮に着くと、レドモンド先輩は門の前で待っててくれた。私が走ってくるのを確認すると、優雅に近づいてきてくれて。
『わざわざすまないな』
「とんでもありません。遅くなってしまって…」
『いや、いつも見やすくて助かるよ。』
心の中でちょっとガッツポーズ。
『あ…っと、マリア。ちょっと時間あるか?ちょっと確認したいことがあってな』
消灯まで時間はもう少しある。早くバイオレット先輩の元に行きたいが、仕事を疎かにするわけにはいかない。
「構いません」
『ここじゃ寒いだろう。俺の部屋においで』
気のせいかな?レドモンド先輩が少しニヤリと笑った気がしたけど、いつものことかもしれない。あまり気にせずレドモンド先輩の後をついていく。赤寮は薄暗いろうそくの灯りでも分かるくらい豪華絢爛で、乙女心をくすぐられる。
『どうぞ。』
「失礼します」
レドモンド先輩の部屋はきれいに片付けられていて、清潔感が漂っている。促されるままに、ソファに腰かける。仕事中だったようで、デスクの上は辞書やら紙類が散らばっていた。
『紅茶でいいかい?』
「あ、いえ、お気遣いなく」
『遠慮するなよ。ここは俺たちしかいないんだ』
じゃあ…と、レドモンド先輩が淹れてくれた紅茶を申し訳なくすすりながら、再び資料に目を通す。時々レドモンド先輩の涼やかな視線を感じつつ、着々と資料を訂正していく。
ひととおり終わったのは、まもなく消灯の時間という頃だった。
『悪かったね、こんな遅い時間まで』
「いえ…じゃあお暇します」
ソファを立とうとして、ふと手を掴まれる。驚いてレドモンド先輩の方を振り返ると、先輩もこっちを食い入るように見ていて。視線の先は…
『そんなに慌てなくても。寮監には俺から説明しておくから、ゆっくりしていくといい』
「そんな、申し訳ないです!もう消灯の時間ですし、いつまでも出歩くわけには…」
それにレドモンド先輩には悪いけど、一刻も早く寮に戻りたい。だって、、、
『バイオレットが待ってるから?』
「!?」
耳を疑った。もしかして…
「…え?」
『俺が知らないとでも思ったか?』
スッと顔に手を差し伸べられ、思わず身体が強張る。触れられたのは、唇。
『付いてるよ』
慌てて確認する。バイオレットのリップ。思わず青ざめる。
「これは…あの」
言い訳ができない。
『この色は…バイオレットしか似合わないな』
腕を引っ張られ、リップを舐めとるようにキスをされる。その感触に思わず身体が反応しかけて、あわててレドモンド先輩の肩を押し返した。
「んっ…レドモンド…先輩…!」
扉を開けて出て行こうとしたけど、追いかけてきたレドモンドに後ろから勢いよく閉じられてしまう。振り返ったら、またキス。今度はねっとりと舌を入れられて、驚いて目を見開く。
「ん……ふっ…や………やめ……!!」
『…キスだけで感じるんだな…ヤラシイ女』
バイオレット先輩のキスでこんな淫らな身体になってたなんて。ショーツの布で吸いきれなくなった蜜が太ももを伝う。
くやしい。くやしい。
バイオレット先輩以外のキスで感じる身体が。
「だ…ダメです……!!」
『バイオレットに躾けられたのか?』
扉はレドモンド先輩に押さえ付けられてビクともしない。力が抜けて、その場にへたり込む。叫ぼうにも声が出ない。蜜で濡れた脚をとっさにスカートで隠す。恥ずかしさと恐怖で涙が止まらず、視界が霞む。
「レ……レド………だめ……」
『だめ?いやじゃなくて?』
ブラウスを肩まで開かれ直に胸を弄られる。
無理やり脚を開かされ、レドモンド先輩の長い睫毛の奥にある瞳に見つめられて。
ショーツの上から軽くなぞられ、思わず声が漏れる。自分の嬌声にハッとして口を抑えるが、頭の上で両手をまとめ上げられ、身動きが取れない。鎖骨に噛みつかれ、鈍い痛みを感じる。
「ひゃぁ………やだ……やだぁ………バイオレット先輩………たすけて…………」
『…………』
ふと、レドモンド先輩の力が緩み、すっと立ち上がった。
心臓がはね回って収まらない。肩で息をしながら、再び血が巡り始めた手首を抱える。
「はぁ……は…………」
『……すまなかった』
レドモンドがうつむいた隙に、扉を開けて外に飛び出した。赤寮は寝静まっていて、廊下には誰もいない。静寂の中、階段を駆け下り傘もささずに紫寮へと駆け戻る。
紫寮までの距離が異様に遠く感じる。雨が火照った身体を急速に冷やしていく。
行けない。バイオレット先輩の元へ。
あろうことか、レドモンド先輩のキスを不本意ながらも受け入れてしまった。そして、愛撫で感じてしまった。濡れてしまった。自分の身体が恨めしい。
やっと紫寮が見えてくる。門扉は開いている。
『マリア!!』
先輩が下で傘をさして待ってくれていた。初めて見る先輩の不安そうな表情に、改めて自身の過ちを悔やむ。
「先輩…ッ!!先輩!!バイオレット先輩!!」
涙を飲み込み、バイオレット先輩の腕の中に飛び込んだ。腕に力がこもって、苦しいほど強く胸に抱きしめられる。
『消灯時間過ぎても戻らないから………』
続く言葉を飲み込むように、唇にキスを落とされる。冷えた身体に温かな火が灯って、少し安堵する。
悔恨の涙も、脚を伝う罪深い快楽の証も、雨と夜の闇が隠してくれた。バイオレット先輩には絶対に知られてはならない。自分の身体が他の男の下で悦びを感じたこと。奇しくもその相手がバイオレット先輩の親友であるレドモンド先輩であること。
バイオレット先輩は敢えて何も聞いてこない。先輩の部屋でシャワーを浴びる。何度も何度も身体を洗うが、一向に”汚れ”が取れない。また涙が落ちる。本当はこんな身体で先輩に会うべきではないことは分かっている。でも。でも。
「バイオレット先輩……!!」
シャワーの音に隠れ、声を出して泣いた。
心に落ちた影は消えない。
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あとがき
はいというわけで。
ラブラブでいさせるわけなーい!
という宣言どおり横槍入れてみました。
追々バイオレット視点もの、レドモンド視点ものを書いていこうと思うんだ(`・・´)
主人公がタメ語混じって話すのは恋人同士だからです。その方がなんか近しい感じで好きです。
あ、最後に。
わたし九州スッシンなんですけど、方言ポロリしてませんか?自分では方言って認識してないことが多々あってですね。たまーーにネイティブ九州弁が混じってえらい馬糞のにおいがすることがあるので、見かけたら教えてくれたら嬉しいです。意味教えてしんぜます。