季節はずれの恋の歌

バイオレット
没作品供養

















「幸せって・・・何かな」




彼が琥珀色の紅茶をすする
私が理由もなく囁いた言葉は
彼の耳に届いているのかいないのか




『・・・・・・・・・・・・』



「・・・楽しいことないかなぁ」




嘆息を漏らして勝手にぼやいて
口に焼きたての小さなクッキーを放り込む
まだ温かいそれは口の中でふわりと溶ける
・・・ちょっとお砂糖入れすぎたかな?



「先輩も食べてみて」



『ん・・・』



「はい、あーん」



あーん、っていったのに、
私がクッキーを差し出すと
唇でちょんと咥えて受け取る先輩

俯き加減に戻る彼の長いまつ毛と
ろうそくの明かりで出来る黒い影





『・・・美味しいよ』



「甘すぎない?」




自ら焼いたクッキーを褒められ
少し照れる私は単純な性格
気持ちを悟られないように少し俯き
赤らむ頬を隠す



『・・・もういっこ』



「自分で食べなよ・・・」



『両手塞がってて無理』



仕方ないなあ・・・
画板を抱え身を乗り出す彼
また一枚手に取ってまた同じように彼の唇へ
少しだけ微笑んで見える彼の口元



「・・・・・・・・・あっ!」



不注意で肘で弾くティーカップ
膝に零れる冷めたミルクティ




『あ・・・大丈夫?』




先輩が立ち上がりバスルームに消える
ややあって戻ってきた
彼の手には数枚のタオル




『火傷してない?』



「冷めてたから大丈夫・・・ありがとう」




受け取ったタオルはとっくに使い慣れたもの
スカートに押し当てるとすぐに
ミルクティカラーに染まる



「カップ・・・割れちゃった、ごめんね」



謝るや否や割れたティーカップの破片を
素手で拾い始める先輩に驚く




『怪我はない?』



「っ、だめ!」




しきりに私だけを心配する彼の
腕をぱっとつかむ
・・・だめだよ、だって




「怪我しちゃうわ・・・!」


『え・・・これくらい平気だよ』


「ダメよ!」





・・・あなたの指先は魔法の指先
もしこの指に傷がついてしまったら・・・





「私が片付けるから!」



『・・・ダメ、君が怪我しちゃうでしょ』



「私は先輩が怪我する方がいやよっ・・・」





クスクスと笑う先輩
慌てる私をなだめるように
長い髪をさらさら梳くように撫で
・・・そのまま触れるだけのキスを落とした




「んっ・・・なに、急に・・・」



『・・・んーん・・・何も・・・』




破片を拾い集め何事もなかったかのように
元の場所に陣取り絵を描き始める彼




「・・・なんなの・・・っ」




彼が口元を隠したせいで
その言葉は聞き取ることができず

私は拗ねたふりをして
真っ赤になった顔を隠すように
甘すぎるクッキーを口に放り込んだ







『・・・幸せだね』





end


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