ビラヴド2/17
ミュージックホールの喧騒も届かぬ二階、片隅にある質素な部屋でひとり、眠れぬ夜を過ごすひとりの女。
扉を開け、お飾りのようなバルコニーに出る。裏手の並木道も闇夜に溶け込み見えなかった。瞳のような赤い月が見下ろすように光をたたえている。
・・・誰にだって時には眠れない夜もあるものだ。マリアは冷たい風に少しだけ身震いをし手を摩る。冷たい手すりに寄りかかり、月を抱く墨色の空を見上げた。
「今日も・・・来ないのね・・・」
独り言は静寂に溶けてマリアの胸に落ちる。思い出すのはあのじんわりとした温もり。
「──────っ」
マリアはあの日の自身の愚かな行為を思い出し、両手に顔を伏せた。
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