絶望してみせてよ
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気付けば先輩の私室。薄暗い部屋の紺色のベッドに寝かされていた。傍らには黒い影が佇んでいる。重いコートを纏ったシルエットはいつもの彼。しかし、何かが決定的にいつもと違う。
「ん・・・先輩・・・・・・?」
さっきまでパーティーを楽しんでいたはずなのに
・・・でもそんなことよりも
嗚呼、きっとこれは夢だ、悪夢よ、
だって私は知ってるはずよ
彼の目は紫色だってことも
彼の肌はエナメルじゃないことも
覚めて、早く目覚めて・・・
こめかみを何度叩いて瞬きしても目の前の影はしゃらしゃら揺れるばかり。
『パーティーなんて退屈だよね・・・』
「・・・っいや!」
ひやりと戦慄する冷感が首筋を這い、思わず硝子のような指先を強く払い除ける。彼の口元は相変わらず孤を描いたまま、無機質な妖黒に縁取られた目が私を射抜く。
黄の燐光としゅるりと覗く長い舌
壊れたように揺れ続けるシルエット
「触らないで・・・・っ」
『・・・遊ぼうよ、マリア・・・』
いつもより低い声
わずかに釣りあがる目元
私は現実から目をそらすようにいつもの彼を頭の中に反芻した。確かに普段から少々気味の悪い人だ。でも優しくて穏やかで本当は綺麗な顔をした・・・何より立派な人間の男だ。フードの奥に隠れた姿は、こんな妖姿ではない。私は今起きている事態を飲み込み、背筋を凍らせた。
・・・・・・これは彼なんかじゃない。
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