短編小説A | ナノ



いつかその瞳が私をうつすとき
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「私だけを見て」
・・・この一言をいう資格は私にはない。
エリート街道を外れた暗い過去を持つ彼には、それまでの彼を支え続けたひとりの女がいる。彼は今でもその子だけを想って、その子の代わりに他のオンナを抱いて。そんな彼につけ込んでこの関係を持ち出したのは、他でもなく私の方。



『・・・何考えてるの』


「あっ、ああっ!」


『集中してよね』



マリアの身体がびくんと跳ねる。いまだに慣れない切々とした痛みが下半身を突き刺す。随分と慣れてきたと思ったのに、充分すぎるほど濡れているのに、それでも彼を咀嚼するのに苦労する。



『・・・痛い?』


「・・・そんなわけ・・・っ」



彼は嘘を見抜くのが上手い人。私のナカが彼の形に馴染むまで何も言わず待ってくれる。少しだけ余裕がなくなる彼の汗が顔に落ちる。・・・その優しさが、貴方をそこまで追い込んだんじゃないの・・・?好きでもないオンナに情けをかけて、こんなに甘いキスを施して。でも、そんな貴方だからこんなに好きになってどうしようもなくて。

ヒリヒリとした熱感がじわじわと快感に変わって、マリアは情愛の皮切りに潤む瞳で彼を見つめた。


「あっ、あぁ・・・ん!あっ・・・」



ゆっくりと動き始める彼の真剣な表情にまた奥で何かが溢れ出す。濃厚な蜜が彼の情欲に絡み、ぐちゅぐちゅと粘膜を解きほぐす。必死に声を抑えるマリアの切羽詰まった表情がまた彼を煽って。

律動を繰り返しながら、彼がマリアの口を手で覆う。抑えきれない声が吐息になり彼の手のひらに消えた。



『静かに・・・あの人にみつかる・・・』


「ふ・・・ぅっ」





聞こえるのは互いの息遣いと粘着質な音だけ。忍ぶ恋はそれだけで情事を群青に彩る。・・・最も、この恋は私の片思いだけれど。こうでもしないと、きっと私は貴方に近づくことさえも出来なかった。真心も未来も初めても全て捧げて、数日前、やっと貴方は私を抱いてくれた。








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