短編小説A | ナノ



La Danse Macabre
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初めて見る、彼のスラリとしたシルエットに胸が高鳴る。いつもは目深に被られ隠されている彼の紫の双眸が周囲の目を引く。社交界など滅多に顔を出さない彼だが、名門寄宿学校の自治を任される監督生という肩書きを持つエリートであることもまた事実。レアキャラの登場に色めき立つ周囲をよそに、彼はワインを口に含む。
マリアは薄紅のシャンパンを手に取り、その味に舌鼓を打った。


「これ美味しいよ、先輩」


『モエ・エ・シャンドン・・・ボクには甘いかな』


招待された舞踏会は郊外のカントリーハウス。豪商である先輩の父の友人が開くものだからと渋々了承した先輩。恋人として同伴するマリア。




『これはこれは、バイオレット家ご嫡男の・・・!』


話しかけられた彼が、流し目で振り向く。ハットを被ったスマートな出で立ちの男性が目前に立っていた。


『・・・ご無沙汰してます・・・』


ややあって、先輩が返事を返す。男性の投げかける世間話や学園での話に相槌を打って、時々なにか言葉を返して。マリアは普段見られない社交に励む彼の姿を隣で何も言わず見守った。これがレディの務めだと母に教わった通りに、静かに笑いながら、何も知らないふりをして。


『・・・ではまたお会いしましょう』


ひととおり話は済んだのか、男性が満足げに去っていった。彼が新しいグラスを受け取り、一息つく。うんざり、と言わんばかりの表情が可笑しくて、つい笑ってしまう。再び彼の隣に立つと、彼が小さくため息をついた。


『・・・さっきの誰だっけ』


「ぷっ!」


どうやら先輩は男の話にいい加減に相槌を打っていたようだ。器用な男だとマリアは感心する。
それにしても先輩がこんな大きな舞踏会に顔を出すなど、大砲でも降ってくるのではなかろうか。マリアは見当違いな不安に苦笑いしつつ、さり気なく差し出された腕を取り居心地の悪さを払拭した。


『マリア・・・こっちにおいで』








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