短編小説A | ナノ



優しい死神
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彼女はぽつりぽつりと語る。
ただ僕は隣で彼女の言葉を聞いていた。


「・・・あの時は本当に辛かったから・・・死ぬことはただ唯一の救いだった」


『・・・・・・・・・・・・・・・』


「・・・だから、怖くなんてなかったよ」



目の前で蛍の光が揺らめいて滲む。
聞くことはないと思っていた彼女の思いが、空気に溶けて泡のように浮かぶ。



『・・・・・・・・・』


「でもね」




彼女が僕の顔を見上げた。その頬には大粒の涙が流れていた。


「・・・あなたに会えなくなる事だけが、怖かった」



僕は堪らず彼女を抱きしめた。

あの日と変わらないのは笑顔だけじゃない。
もう何年も前に自ら命を絶った彼女は、顔も身体も、声もその素直さも・・・すべてあの日のままで。


「・・・好きだった。あなたのことがずっと好きだった。とうとう言えないまま、私は・・・・・・」


『・・・マリア』


「・・・会いたかったよ、バイオレット。ずっと心残りだった・・・」



彼女が背伸びをして僕に口付けた。
答えるように首に手を回せば、お互いの感情が流れ込むようにキスが深まる。



『マリア・・・、僕も・・・会いたかった・・・』


「ふ・・・っ、バイオレット・・・」


『・・・好き・・・、好きだよ・・・マリア・・・』


彼女の眼鏡を外せば、潤む瞳と目が合って。
僕の言葉に嬉しそうに笑う彼女に、僕はもう一度深く口付けた。
稚拙な彼女のキスから伝わる彼女の悲しみと寂しさ、そして僕への想い。






・・・僕はもう君をひとりにはさせない
もう君を悲しませない



────あの日出来なかったことが、今の僕には出来るんだよ。









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