優しい死神
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「────驚いた?」
久しぶりにあった彼女の第一声はそれだっ
た。
『・・・・・・・・・いや』
広大な学園の奥の奥、狩猟の練習用の森の中。
鬱蒼とした木々の狭間に踏み入れてすぐ、大きな木の陰から彼女は姿を現した。
「変わってないね、バイオレット」
『・・・・・・・・・』
あの頃と変わらない笑顔でこちらに駆け寄る彼女。泥濘む地面が泥をはね、少し僕は後ろに退いた。構わず胸に飛び込んだ無邪気な影に、全てを諦めたけれど。
すこし変わったとすれば・・・君は髪が伸びたね。
「元気にしてた?」
『・・・うん』
僕は頷いた。
彼女の瞳はこんな色だったかな、眼鏡なんてかけていたかな・・・
今になって思えばたくさんの違和感はあったはずなのに、あまりに変わらない彼女の笑顔は僕の違和感の全てをかき消した。
「・・・・・・・・・荷物、それだけ?」
『・・・・・・・・・うん』
それだけと言っても、僕はなにも持っていない。大切なものなんてとっくに全て失っている・・・
・・・・・・なんてね。
そんなことは彼女には言わないけれど。
「・・・こっちよ、バイオレット」
僕は彼女に手を引かれて森のさらに奥へ進んでいく。
真夜中の森は月明かりすら朧気で、きっと彼女の手を離してしまえば僕は暗闇の迷路をさまようことになるだろう。
『・・・暗い』
「・・・怖い?」
『ううん・・・平気』
僕はきゅっと彼女の手を握った。
この手はいったいどんな重荷を抱えていたんだろう。僕の手にすっぽりと包まれてしまいそうなほど小さな手で、いったい君はどんな絶望を遮ろうとしたんだろう。
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