暗いの1本!!
2017/02/07 12:56
赤い瞳のような月が浮かぶある日の夜のことだった。
僕は6年間使い続けた机にそっと触れた。
柔らかな冷たさがどこか愛おしくて、少しだけ部屋の中を眺める。
・・・生きた証など要らなかった。
僕は全てを振り切るように暗い部屋をあとにし、さらに暗い寮の廊下を早足で歩いていく。
まだ夜は明けていない。
当然ながら誰もいない校庭。
芝生を踏み歩き、旧校舎の間を抜け、向かうのは学園の片隅にある深い森。
鬱蒼とした木が僕の侵入を拒んでいるけれど、僕は構わず中へと踏み入れた。
「・・・バイオレット」
しばらく歩くと、小さな影が佇んでいた。
『・・・久しぶり』
小さな影がこちらに駆け寄り、やがて僕の身体にぽすんと包まれるように飛びついてきた。
「会いたかった・・・」
『ん・・・』
背伸びをして僕にキスをする彼女。応えるように頬に触れれば、あの日と変わらない笑顔で微笑んでいた。
「荷物はそれだけ・・・?」
首をかしげる彼女に、僕は少しだけ笑いかけた。
『・・・うん』
「そう、じゃあ行こう」
僕の手を取りさらに森の奥へ歩き出す彼女。
後を追う僕の足取りは驚くほど軽かった。
『・・・ねえ』
「なあに?」
少し前を歩く彼女に僕は小さな声で話しかけた。
『・・・・・・・・・怖かった?』
僕の質問に、彼女は顎に指を置き考えていた。
ややあって、ようやく彼女が振り返る。
「・・・怖くはなかったよ。やっと救われるんだ、って思った」
『・・・そっか』
「・・・・・・でもね・・・」
彼女の後ろで赤い月が覗き込むように森の中を照らす。僕はどきりとして、彼女の顔を見つめた。
「・・・貴方に会えなくなるのが辛かった」
『・・・・・・・・・』
僕はたまらず前を行く彼女を背後から抱きしめた。
少し彼女はたじろいだけれど、構わず強い力で冷たい身体を抱いた。
『・・・・・・ごめんね、一人で逝かせて』
「・・・ずっと会いたかった、バイオレット。あなたを置いていくことだけが私の心残りだったから」
『・・・もうひとりにはしない。誓うよ』
・・・彼女は涙をこらえていた。
僕の最期の日にようやく果たせた再会。彼女は僕の魂を狩りに来た死神。
僕は小さな袋の中からナイフを取り出した。
「愛してる、バイオレット」
『・・・愛してるよ』
彼女の腕の中で、僕は人間としての生に幕を下ろした。
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Gregory Violet
DEAD:XX.XX.18XX
MEMO:suicide