愛憎の仮面


彼女と出会ったのは何時だったかなァ。
とてつもなく昔のようにも思えるし、むしろ最近のようにも思える。

現世に来てからバッサリと切った自慢の髪の毛。
切った当初は嘆いたものの、意外にも周りからの評判は好評で、ほなこのまま短いままにしたろか、という単純な思考でずっと短いままである。
あのサラッサラの長い髪の毛の時とは違って手入れは楽だし、まあええんじゃないやろか。

私ね、真子の髪の毛、大好き。

そう言ってくれたのは俺の見解が正しければ、今も彼女のはずだ。
なんたって別れも言えずに死んだとされて現世に送り込まれたもんやから、彼女に違うオトコができたとしても文句は言えない。いや、できてたらぶっ飛ばしてやるに決まっとるねんけどな。
俺はと言うと、まあ、男ってモンはアレや。性欲の処理に困るモンや。愛しの彼女を思い浮かべて自慰することは多々あったが、やっぱり誘惑には負けてしまって何度か見知らぬ女を抱いたことはある。脳内では彼女であると設定しながら。
こんなことを知られたら俺、終わりやろな。というのも、彼女がまだ俺の彼女であるという認識があるのなら、という話なんだが。

そんな中、藍染の事件とやらがあって、無事に解決したわけや。
そりゃもう、凄まじくて。怪我人も死人もようけ出たわ。俺らの仮面の軍勢にもおるしなあ。
で、一応は平和になりました〜ってわけや。そんで俺は向こうに戻って隊長さんをやることになった。仲間と離れるっていう寂しさもあったが、彼女に会えると思うとみんなにはちょいと悪いが嬉しかった。
俺の隊に知っとる奴何人おるんやろ、とか考えていたけれど、そんなことよりも彼女に会った時最初なんて言えばいいのか、と悩んでいた。

淡々と隊長に復帰し、あれよあれよと忙しさに身を任せていたから彼女にまだ会えていなかった。昔から変わっていなければ、違う隊だったから会うことはもともと少なかったししょうがないといえばしょうがないのだが。

でもすれ違うこともないなんて、どういうこっちゃ…
そう思いながらのそのそと歩いていると、どこかで見たことのある後ろ姿を見た。
どくんと大きく心臓が脈打った。そうだ、彼女だ。俺が一番大好きななまえだ。

「なまえっ…!」

名前を呼んだ時、俺はまだ気付かなかった。隣に違う男がいることを。

何も言えずに立ちすくんでいると、隣の男が誰だか分かった。九番隊副隊長の檜佐木だった。
お互いの手をつないで、久しぶりに見たなまえの顔はとても幸せそうだった。

怒り、と言うよりも虚しさのほうが多く込み上げてきた。
俺はなにを期待していたんやろか。なにを待っていたんやろか。

違う男ができていたらぶっ飛ばす、なんて出来やしなかった。現実についていけないからや。それに、そんなのあり得ないという自信が何処かにあったからや。

どんどん遠くなっていく二人に、俺は何もできないままだった。


愛憎の仮面
(愛しかった仮面が憎くて仕方がない)




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