君が望む言葉を僕は言ってやれない




彼女は少し変わってる。
変態だとか、そういう意味ではない。なんだか、掴み所がないのだ。

良く言えば孤高な存在、悪く言えばふらふらしている存在。どちらにも当てはまるように思えるのだが、なんというか、身体も精神的にも弱い。

山崎さん、と弱々しい綺麗な声で呼ばれた時は何故かどきりとする。俺は彼女のことが好きだ。だからもちろんドキドキする。だけどそれと同時に今にも壊れてしまいそうな彼女を見て不安になるのだ。


さて、二人はどこで出逢ったのか。時は半年前。彼女はストーカー被害にあい、真選組を訪れた。どうやら長い間被害にあっていたらしく、精神状態は不安定。もっと早く来ればいいものの、警察には抵抗があったらしい。

そこで駆り出されたのが俺だ。約一週間程、彼女の周りを偵察。偵察を始めて二日目。なるほど、あいつがストーカーの犯人か。確かに夜道を歩く彼女の後ろをするすると追っていく。
彼女の家まで把握しているらしい。これではいつ彼女自体に被害がいくか分からない。早いうちにこいつを逮捕しなければ。
俺は急いで報告書を書き、副長に提出した。

こうして犯人はきっちり逮捕された。彼女のか弱い後ろ姿に惚れ込んだというのが犯人の供述だった。なんと悲しいことかな。人間というのは、自分の欲望さえ叶えればそれでいいのか。
俺はどうしようもない怒りを覚えた。確かに偵察をしている一週間、彼女を見ているとその儚い雰囲気に惹かれてしまった。だからこそ、ストーカーという手段で彼女に近付こうとした犯人が許せなかった。

逮捕したあと、彼女は安心した表情を見せたあと、山崎さんありがとうございました、と言った。俺はなんとも言えない感情が芽生えてしまった。
白い肌、細くて弱々しい体、整った顔、そしてこの儚げな存在、俺は彼女に恋をした。
沖田さんは彼女を見ると、是非下僕あるいは雌豚にしたいと言うもんだから、ますます彼女を守りたくなった。

彼女はストーカー被害という精神的苦痛を受けた。そして俺(実質、真選組だ)がその犯人を逮捕した。これはチャンスだと思った。汚いと思うかもしれない。だけど、彼女にとっては犯人から救ってくれたヒーロー的存在に思えるはずだ。それならば、彼女がヒーローを好いてもおかしくない。犯人の手よりは汚くなんかない。むしろ、彼女を守る、当たり前のことなのだ。


こうして彼女と知り合ったわけだが、いきなりお付き合いを申し出てもまだ傷付いている彼女には苦痛なはず。
俺は考えた。週一のペースで彼女の様子を伺いに行くのだ。彼女の心配をしつつ(これは本当だ)、俺のポイントを上げていく。

すると思惑通り、彼女は俺に好感を抱いたようだ。俺が彼女のもとへ訪れると、最初は机を挟んで会話をしていたが、今ではソファーで隣り合わせになって座っている。
しかし、はにかむような笑顔と同時に暗い裏側も見えてきた。なんと彼女には夫がいたのだ。
では何故俺を家に招き入れるのか?
そう、夫は死んでしまった。不慮の事故で死んでしまったのだ。

棚の上には夫と彼女が幸せそうに笑っている写真が置いてあった。ああ、優しそうな人だな、ただ素直にそう思った。

知り合って半年。俺は彼女が好きだ。
だけど、半年間で彼女のことを沢山知った。知りすぎたようだ。
今にも壊れてしまいそうな存在、儚くて守りたくなる存在、そう勝手にレッテルを張り付けてしまったのは俺なのに、そして彼女が俺に好感を持たせるためにしたのも俺なのに、いざ彼女に好かれると、一歩後ろに下がってしまう。
こう思ってしまうのだ。「軽い女だ」、と。
それを彼女も自覚しているのか、彼女はますます弱々しい笑顔を浮かべるようになった。


自分から関わって、自分が仕向けたのに、俺は彼女に優しい言葉をかけてやれない。
そして俺は彼女のもとに行くことをやめた。そうだ、もうとっくにストーカー被害は解決してるではないか。もう被害はないし、彼女の心も癒えたはずだ。


ただ、こんな俺は犯人の欲望と一緒じゃねぇか。







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