記念日 今日は仕事もない。素敵な休みだ。 素敵な…休み 「じゃねんだよオオオオオオオオ」 正確には今日 も 仕事がない。 いつになったら仕事は入るんだ。金が入るんだ。 今日も銀髪の野郎はジャンプを読み漁っている。 心は常にいつもこれからも少年なの。などと馬鹿げた事を言うが、はっきり言ってもうお前は大人だ。誰が見ても大人だ。だから家賃を払え。 しかしそんな腐った大人の恋人は自分だったりする。 最初はウフフアハハみたいなフワフワフワフワした事もあったが、今じゃ熟年夫婦のような雰囲気を醸し出していた。 せっかく新八くんも神楽ちゃんも仕事に来ているのに、一切依頼はなし。 もう二人とも諦めているのか、結局万屋はだらだらしていた。 朝ごはんも終えて、掃除も終えて、洗濯物はいい天気だったから外で干している。 気付けば昼過ぎで、冷蔵庫から適当に食材をとって適当に昼ごはんを作って、天パ野郎に最近手抜きじゃね?とか文句言われたけど作ってもらえるだけ感謝しろよと心の中で返事をして、洗い物もしっかりして、洗濯物も取り込んでたたんでタンスにしまって、じゃあこれで失礼しますと早めに新八くんと神楽ちゃんが家に帰り、今日も仕事がなかったんだなあと実感をしました。はい、もう夜です。 銀時を見れば、テレビをぐうたら見ている。 そういえば、今日というか最近まともに二人で会話をしていない。 恋人らしい会話などいつからしていないんだろう。 「ねえ銀時。」 「あ?」 「私たち、付き合ってどんくらいだっけ」 「……」 「……」 するとすくっと立ち上がってスタスタと玄関に向かって一直線。 あたふたしている内に銀時はブーツを履いて外に出てしまった。 怒ってしまったんだろう。 一緒にいるのが当たり前だったから。でも、私からしたらただ会話のネタとして話を振っただけなのに。そこからもうこんなにたったんだねーみたいな事を話したかったのに。 それだけなのに。どうして彼は外に出ていってしまうくらい怒ってしまったんだろう。 時計を見ればもう6時をまわっていて、そろそろ夕飯の支度をしなくてはならない。 何気なく、時計の下にあるカレンダーを見れば、今日の日付に赤いペンでマルがついてあった。 今日は、何か大切なことでもあったのだろうか。 …あれ?今日って、もしかして。 私と銀時が付き合って、1年の日?そうだ。丁度去年の今日、銀時に告白をされて付き合うことになったのだ。 そう思えば、銀時があれほど怒ってしまったことにも納得がいく。 やばい。記念日もすっかり忘れていた。嗚呼、だから新八君も神楽ちゃんも気をきかせてくれて早めに帰ってくれたのか。 これは早く謝らないといけないと思い、急いで靴を履き、玄関の引き戸を開けた時。 「あ」 「あ」 銀時は帰ってきた。ここで素直に昔のように可愛く謝ればいいものを、なんだか気恥かしくて、なかなか言えないでいると、スッと私の横を通って家の中に銀時が入っていった。 思えば、ここまで機嫌を悪くした彼を見たことがない。 プリンを食べちゃったとか、チョコを食べちゃったとか、ご飯を作り忘れちゃったとか、そんなことでしか喧嘩をしたことがなかったからだ。 あれ?もしかして、これって、別れるの? 1年もすれば、一緒にいるのが当たり前で、彼の事は分かったつもりでいた。 だけど、記念日もすっかり忘れている彼女なんて。あんな質問を平気でするなんて。 無性に自分に腹が立った。 「なあ」 悶々と考えていると、いつの間にか銀時が私の前にいた。 嗚呼、もう別れるのかな。そう思うと涙が自然に目に溜まっていた。 涙に気付かれないように俯いて小さく返事をすると、ぐいっと強く抱き寄せられた。 え?え?え? なんで?もしかして最後の抱擁ってやつなのかな? もうマイナス思考が止まらなくなってる私に銀時が言った。 「俺たちさ、今日で付き合って1年なんだよな」 「…うん」 「あ、のさ。なんか、その、ありがとな。いつも俺のそばにいてくれて」 そう言いながら彼は私に小さな箱を渡してきた。 ゆっくりと箱を開けると、可愛らしいピンクシルバーの指輪が入っていた。 高いの買えなくてごめんな、とゴニョゴニョ照れながら言っている銀時を見て、溜めてた涙がぶわっと溢れ出した。 「ふぇっ…ごめんねっ…わ、わたし、記念日、忘れててっ…ひっく」 「え、そーなの?忘れてたの?ジャイ子ちゃん、そうなの?」 「うんっ…ごめんね…ありがと…う…ぶえええええええええええええん!!!!」「ちょ、おま、ブッサイクな泣き方!」 どうやら銀時は怒っていた訳ではなく、この予約していた指輪を取りに行くのを忘れていたそうだ。 それも、私があの質問をしなければ取りに行くのを忘れていたそうで。カレンダーにマルをつけていたのも取りに行くのを忘れないため。 つまりは、銀時も忘れていたのだ。お互い様だった。 「これからもずっとよろしくね銀時」 「よろしくお願いします」 久しぶりに恋人らしい夜を過ごせた気がした。 *** ベタでさーせん |