追憶の中で愛した君だけが色づいて



彼女が死んだ。


その知らせを聞いたのは、彼女が死んでから一ヶ月程経っていた。
正直、現実についていけなかった。ある日電話で聞いた話は余りにも非現実的だった。

俺は今、彼女の家にいる。俺とは顔見知りだったためか彼女の両親は快く迎えてくれた。

仏壇の前に座ると、なんだか不思議な気持ちになった。今までも何人もの葬式やら墓参りやらしてきたのに、彼女の死にはなかなか受け入れられなかった。柔らかく笑う彼女の遺影。その遺影の前に持ってきたお供え物を置く。…全く、形式的には死を理解している矛盾さに笑えてきた。

お香の匂いがやたらと鼻につく。

どうやら葬式は身内のみの小さなものだったらしい。ひっそりと、彼女は焼かれていった。
その骨が、今目の前にある。なんてあっけないんだ。


彼女は、俺の初恋の人だった。俺よりもふたつ年上で、栗色の長い髪と柔らかい笑顔に惹かれた。同年代とは違って大人で、綺麗だった。

しかし彼女は病弱だった。青白いほどの肌はよりいっそう弱さを引き出していた。もしかしたら、俺はそこにも惹かれていたのかもしれない。

そんなことを思っていたのはもちろん俺だけではない。高杉もその一人だった。奴は何も言わなかったが、彼女を追う目線ですぐに理解した。嗚呼、お前も虜になったか、と。


好きだった。だけど、言葉には表さなかった。何故か?彼女の負担になることを恐れたからだ。自分で言うのもあれだが、多分両思いだったと思う。お互い愛を確かめあうのも良かったかもしれない。でもやらなかった。理由は分からないが、本能的にストップがかかった。これももしかしたら、彼女がいつかいなくなることを予知していたのかもしれない。

あらゆる要因が重なって、連なって、彼女が死んだ今、分からなかったことが曖昧でも分かってきた。理論的なんかじゃない。なんとなく、でも、合っているんだと思う。


俺と彼女は一度だけ、キスをした。
甘いキス、というよりもほろ苦さがあった。ガキの馬鹿みたいなキスじゃなくて、大人なキスのように思えた。少し触れた程度なのに、ここまではっきりと思い出せるのは、それほど印象的で感傷的だった。
余りにも切なかった。

そのキスをした数日後、彼女は消えた。
俺に銀色のシンプルなネックレスを残して。これは彼女がいつもつけていたもので、真っ白な胸元によく合っていた。
このネックレスはメッセージだと思った。待っていて、と。

本当は会いたかった。だけど、俺は年下で、ガキっぽさを出したくなくて、大人のふりをして我慢をしていた。


そして数年が経った今、死んだという知らせを聞いた。
骨となった彼女との再会は、哀しみと悔しさでいっぱいだった。会いに行けば良かった、と。(俺の推測だが、彼女は待っていたに違いない。それなのに探さなかった俺は大馬鹿野郎だ。)
俺はそっとネックレスを遺骨の入っている箱の上に置いた。


嗚呼、やけにお香の匂いが彼女の死を思わせる。
こんなにもはっきりと彼女の姿を思い出せるのに。



・・・

僕の知らない世界で
参加させていただきました!ありがとうございました。



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