おやすみ、また明日



「なあなあ、昨日すげぇ可愛い子に逆ナンされて」

「まじで?メアドは?」

「もちろん教えた」



今は学校の帰り道で電車の中であり、俺は席の向かいに座っている同じく学生であろう奴らの会話を聞いていた。いや、正しくは聞こえてしまった、か。

しかし俺の通学路に電車はない。なぜ電車に乗っているのか?
所謂彼女の家に向かっているからである。そう、今日は俺の誕生日。だから二人で過ごそうと決めていた。だが、肝心の彼女は学校を欠席。
確かに10日になったすぐにメールも来ないし電話も来ない。忘れられたかと思いきや、朝に熱が出たから学校休むね、とメールが送られてきた。そして遅れてごめんね、お誕生日おめでとう、と。
彼女の弱々しさが伝わってきて、なんだか情けなくなった。

せっかく俺の誕生日だ。それなのに彼女の看病をしに彼女の家に向かっている。なんとも言えない感情だ。彼女の故意ではないものの、誕生日にわざわざ熱を出させるなんて。なんて非道な神様なんだ。俺は許さないぞ。


先程の学生たちもいつの間にか違う駅で降りていて、また自慢話を繰り広げていることだろう。正直羨ましいと思った。そっちはこれから幸せになろうってのに、こっちは幸せを突然奪われたのだ。(誇張して言えば、だが)

夏もすっかり終わり、少し肌寒くなってきたこの季節、夕暮れも綺麗で、でもこれを1人で眺めていることに少し苦笑しながら彼女の最寄り駅で降りた。
駅からは割りとすぐ近くで、彼女の家に寄る前にコンビニで適当にあいつが欲しそうなものを買った。あと俺のプリンも購入した。

少し歩いて彼女の家に着いた。インターホンを鳴らせば、何の反応もない。数分待ってみたものの、誰も出てこないため、とりあえず彼女に電話をかけてみた。ワンコール、ツーコル…出ない。
寝ているのか?それならば仕方がない。メールを入れて帰ろうとしたとき、携帯電話が震えた。どきりとしながら着信相手を見れば、彼女からだった。

「…もしもし」

「げほっ…あ、銀ちゃん…?」

「おま、大丈夫かよ」

「ごめんね、けほっ…お誕生日、おめでと…」

ゴホゴホと辛そうな咳をする彼女の声を聞いて、はっとした。本当、俺は自分のことしか考えてないんだな。誕生日だからって、大切にしなきゃいけないのは彼女だってのに。

「あー、気にすんな。ところで」

「ん…?」

「俺、いま」


と言いかけたところでふと気付いた。いまここに俺がいることを言えば、間違いなく彼女は無理をしてでも会ってくれるだろう。しかし、今は病人だ。その病人を俺の誕生日という我が儘でよたよた歩かせていいのか?答えはノーだ。
ここでよくある漫画のワンシーン(彼女の家で読んだ少女漫画)だと、家の前にいることを伝え、彼女が出てきて抱擁しあってハッピーエンド。あるいは彼女の部屋の窓に向かって手を降ってハッピーエンド。



「どうしたの?銀ちゃん」

「あァ、いや。風邪、早く治せよ。お大事に」

「ごめんね、せっかく、けほっ、銀ちゃんの誕生日なのに…」

「気にすんな気にすんな」

「でも…」

「そんなん気にすんなら早く風邪治せよ?んで、俺に会いに来ればいいだろ」

「…もう…」

照れた彼女の声を聞いて、なんだか心が穏やかになった。


「じゃ、おやすみな」

「うん。銀ちゃん大好きだよ」

多少かすれた声に苦笑しながらも、その言葉があまりにも嬉しくて、にやけながら着信を切った。

さて、このコンビニの土産は玄関にでも置いとこう。俺がいつも食ってるプリンといちご牛乳が入ってんだ。彼女のことだから分かるだろう。

これも結局は少女漫画のワンシーンになっちまったな。
まァ、悪い気はしねぇ。




・・・

2012/10/10
銀ちゃんはぴば!!




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